決勝では芸として完成されていて、技術の面でも発想の面でも非の打ち所がない文句なしに面白い人ばかりが揃っている。いや、決勝どころか、準決勝や準々決勝の段階からすさまじくハイレベルな戦いが繰り広げられている。今の準々決勝は昔の決勝と同じくらいか、それ以上の水準にあると言っても過言ではない。
第一期『M-1』では、大会そのものを研究して、勝つための傾向と対策をきちんと考えられる芸人が決勝に上がったり、優勝をしたりすると言われてきた。それがある程度まで通用したのは、まだ情報が少ない時代だったからだ。
今は状況が変わった。『M-1』の過去動画や予選動画などもウェブで手軽に見られるようになり、情報は氾濫している。『M-1』で勝つための戦略を考えたいなら、誰もがどこまでも深く掘り下げられるようになっている。最近は出場する芸人の誰もがやっているような分析や研究ではほとんど差がつかなくなり、技術や発想のわずかな違いだけを競い合う息苦しい勝負が行われている。
かつてプロ棋士の羽生善治は、インターネットの進化によって将棋の世界が様変わりした結果、「強くなるための高速道路が敷かれた。でも高速道路の先では大渋滞が起きている」と語っていたことがある。『M-1』でもこれと同じことが起こっている。漫才師の誰もが『M-1』の勝ち方を研究して、攻略法を手にした。だからこそ、その先の勝負がさらに激化しているのだ。
そんな現状を知らない人の中には「有名な芸人が次々に予選で敗退しているのは、決勝のメンバーを目新しくするために主催者があえて常連を落としているからだ」などと邪推する人もいるかもしれない。だが、実際はそうではない。準々決勝や準決勝の様子を見ればわかることだが、彼らはただ真正面から戦い、そして敗れたのだ。オズワルドの伊藤俊介も準決勝敗退という結果を受けて「なんの文句もございやせん!」とツイートしていた。
ファイナリスト9組のうち、5組が初決勝、4組が二度目の決勝。常連不在、本命不在のフレッシュな顔ぶれが揃った今年の決勝は、紛れもなく過去最高レベルの戦いとなるだろう。新たな伝説が生まれるその日が待ち遠しい。(お笑い評論家・ラリー遠田)