一度メンタルの疾患で仕事を休職すると、職場への復帰は容易ではない。労働政策研究・研修機構の調査によると、メンタルヘルスの疾患で休職した労働者の職場への復職率は45.9%に留まっている。その復職率は脳血管疾患者(46.4%)やがん疾患者(47.5%)をも下回っており、メンタルの疾患が仕事に大きな影響を与えることを物語っている。だが、メンタルヘルスに関しては診断が難しい疾病も多く、企業側がそれを“悪用”して労働者を追い詰めるケースもある。元大手人材紹介会社教育研修部長で、長年にわたり転職先での活躍支援に携わる川野智己氏が、実際にあった転職者の悲劇を紹介する。
【表】あの有名企業も! 厚労省が発表した「ブラック企業」一覧
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■感染症の蔓延で理想の職場が瓦解
松本恵美さん(39=仮名)は、特別養護老人ホームの職員として長年勤務していた。
常勤の医師とともに、利用者である高齢者が穏やかな終末期を過ごせる施設介護を目指し、利用者、その親族とも連携した良い関係を築いていた。利用者の「みとり」に際しても、医師や職員は親族に寄り添い、穏やかで自然な伴走者として誇りをもって働いていた。
しかし、新型コロナ感染症の蔓延が全てを変えてしまった。
蔓延防止のために、利用者が楽しめるイベントは中止され、利用者と親族との面会も制限をせざるを得なくなった。国の隔離政策により、利用者と親族は引き離され、最期の面会すらまともにできなくなっていった。そのことで、恵美さんは親族からの厳しいクレームの矢面に立たされるようになる。自分は親族の伴走者だと自負していただけに、それは耐えがたい辛さであった。
「別れを前提とした出会いではなく、これからは幸せを導く出会いに携わりたい」
恵美さんは、そう決意して転職活動を始めた。
■「幸せに導く」やりがいのある転職先へ
恵美さんの転職先は、都心の結婚情報サービス会社、その名も「YOU・逢(あい)」社(=仮名)。当時、業績を急激に伸ばしていたベンチャー企業だ。
会員を募り、その登録情報をもとに理想の相手とマッチングさせ、結婚を望む人にとって「幸せに導く出会い」を提供する――恵美さんにとって、やりがいのある転職先だと思っていた。