長谷川真理子さん
長谷川真理子さん
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  世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダーギャップ指数で日本は最下位グループをウロウロするばかりなのは、広く知られるようになった。国会議員や閣僚に女性が少ないことが大きく足を引っ張っているのだが、学術の世界でも女性比率の低さは世界で際立つ。86ある国立大学で、女性学長がいるのは5大学である。ひょっとすると「え、5人もいるの?」と驚かれたかもしれない。そう思ってしまう人が少なくないところに日本社会の姿が端的に表れていると思う。

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 5人のうちの1人が進化生物学者の長谷川真理子さんだ。総合研究大学院大学(総研大)の学長を2017年から務め、今年3月で2期6年の任期を全うする。学部がなく大学院だけなので大学の一般的な知名度は高くはないが、長谷川さんは著書や訳書も多く、マスコミにもしばしば登場する有名人だ。

 女性比率の低い日本の学術界で奮闘する女性研究者たちに話を聞くインタビューシリーズは、長谷川さんに幕を切ってもらうことにした。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子)

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――野生動物の研究をされてきたんですよね。

 私は生物を丸ごと研究したかったんです。それで、房総半島(千葉県)のサルとかアフリカのチンパンジー、イギリスのシカなどの行動を観察するフィールドワークをしてきました。ただ、職を探さないといけないとなったとき、女性で、チンパンジーとかシカとかの行動観察をやってたっていう人の就職先はないわけ。それで、すごく苦労して専修大学法学部の教養の先生になりました。1990年から2000年まで10年務めて、2000年から6年間は早稲田大学政治経済学部の教養の先生でした。この16年間、私の研究者としての人生はお休みだった。2006年に総研大で新しく生命共生体進化学専攻というのをつくるからって呼ばれて、そこで初めて本当に研究ができる場所に来た。

 でも、総研大に来ても最初は新しい専攻を立ち上げるための準備室長で、1年たってから研究科長、専攻長と交互に何年もやって、それで副学長になって学長になったので、研究の時間はあまり取れなかった。

 その中で10年前に「思春期の進化学的研究」が始まった。東京ティーンコホートという、3500人の当時10歳の子供をずっと調査するというプロジェクトで、思春期というのがどういう意味があってどういう重要な時期かというのをいろいろ多角的に研究するんです。私はA01班の責任者で、 全体の責任者は東京大学医学部の笠井清登教授。笠井さんとずいぶん進化的な話をしながらスタートさせたので、それは本当に良かった。学長を引退したらここに戻って研究しようと楽しみにしています。

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