佳子さまの詠んだ和歌も、胸の内が伝わってくる。
<卒業式に友と撮りたる記念写真裏に書かれし想ひは今に>
高校の卒業式の日にご友人2人とで撮った写真。裏に寄せられたメッセージの思いが3人の中で今も続いているという心情を詠っている。
その年齢だからこそ、生み出される表現がある。
「卒業から10年ほどの歳月を経て、いま鮮やかによみがえる友の言葉の大切さを詠んだお歌です」(永田さん)
「コロナ禍」を詠んだ天皇陛下の御製は、注目を集めた。
<コロナ禍に友と楽器を奏でうる喜び語る生徒らの笑み>
2021年10月、和歌山県で開かれた「国民文化祭」にオンラインで臨席した陛下は、演奏した吹奏楽部の高校生から、感染防止の工夫を凝らしながら練習を続け、演奏できた喜びを聞いた。生徒らの姿にうれしさを感じるとともに、人々が日常生活に戻ることへの願いを詠んでいる。
古来、天皇の御製は、国や国民への祝福であり「ハレ」を詠むことが多い。
生徒たちの喜ぶ姿を見守る天皇陛下のあたたかな目線を感じる和歌だ。一方で、御製のハレの面を意識した場合、「禍」という言葉は適切なのだろうかという見方もある。
「天皇の御製に、時代背景が詠いこめられるのは大切なことです」
永田さんは、そう答える。
天皇陛下の誠実な性格を実感するエピソードがある。
<友と楽器を奏でうる>の「奏で」という言葉。最初の御製は、「吹く」など別の言葉であったという。
しかし生徒たちが演奏する楽器には、管楽器だけでなく弦楽器や打楽器も含まれていた。最初の表現では、打楽器などが含まれないように伝わってしまう。
陛下はご自身で「奏でる」という言葉を選び直したという。
天皇陛下は、個人的な思いや心のひだを国民に言葉にして伝えることは基本的にない。しかし、和歌を通じて胸の内を表すことはできる。五音と七音を基調とする日本古来の詩歌である和歌。それは、皇室と国民との絆でもある。
皇后雅子さまの御歌は、ご自身の大切なものを詠んでいる。
<皇室に君と歩みし半生を見守りくれし親しき友ら>
両陛下がご結婚したのは、1993年。今年は30年の節目にあたる。天皇陛下と歩む歳月を支え、見守ってくれたご友人たちへの感謝を伝えた和歌である。
歌会始の儀では、古来の形式にのっとり披講(読み上げ)される。出席者は、和歌の文字を目で読まず、音で聴聞することになる。声に出して、音の響きを大切にするのが和歌の魅力でもある。
「ぜひ、皇室の和歌と一般から選ばれた預選歌も声に出して歌の音を味わっていただきたいですね」(永田さん)
(AERA dot.編集部・永井貴子)