小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
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新型ウイルスの感染拡大を受け、政府は2月26日、今後2週間は大規模イベントの自粛、中止や延期、規模縮小を呼び掛けた。各地ではイベント中止が相次いだ (c)朝日新聞社
新型ウイルスの感染拡大を受け、政府は2月26日、今後2週間は大規模イベントの自粛、中止や延期、規模縮小を呼び掛けた。各地ではイベント中止が相次いだ (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】新型ウイルスの感染拡大を受けイベント中止が相次いだ

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「やっぱり、日本にオリンピックを開催させたくない国の陰謀ですよね? 時期を考えてもそうとしか……人工的に仕掛けたんだろうなって」

 街で偶然出会った知人は大きなマスクの陰で声を潜めてそう言いました。なんと答えていいのか、一瞬絶句してしまいました。たぶんこの人が触れている情報は私が目にしているものとはかなり、違う。この人にとってはこれが「隠された真実」で、周りには同じように考える仲間もいるのでしょう。たまに仕事場で会うぐらいの間柄という遠慮もあり「どうですかね、報道を見る限りでは自然界のものだと思いますが」と答えて別れました。メアドを聞いて、いろいろな記事のリンクを送ればよかったのかな。でも「マスゴミを信じているなんて」って軽蔑されるだけかもしれない。

 知人は、新型ウイルスそのものよりも、日本にダメージを与えようと画策する何者かの存在を恐れているようでした。今回のアウトブレイク以前から、そのような漠然とした不安があったのかもしれません。ウイルスは手洗いや手指の消毒で感染を防げるけれど「日本はどこかの邪悪な国に狙われているのではないか?」という疑念は洗い流せません。感染症に関する医学的な事実を伝える情報に触れるたびに「こうして真実を隠蔽(いんぺい)している」と疑念を深めたのでしょうか。

 東日本大震災と原発事故の時にも、陰謀論を語る人たちがいました。情報が錯綜(さくそう)する混乱の中では、誰しも「絶対にだまされたくない」と不安になります。そんな時に「その不安は正しい」という言説に出合うと、報道機関や専門家の話よりも信頼できると思ってしまうのかも。

 漠然とした不安は、小さくてもいいので目の前の具体的な目標をクリアすることで軽減すると言います。今は睡眠、栄養、手洗い、消毒に集中することが一番ですね。

AERA 2020年3月9日号

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小島慶子

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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