2007年から約12年間、アエラでコラムを連載していたぐっちーさんが亡くなって約5カ月。トランプ大統領誕生から、亡くなる直前に書かれた絶筆までの177本を完全収録した遺作、『ぐっちーさんが遺した日本経済への最終提言177』が2月21日に発売された。そんな177本から、編集者が真っ先に読んでほしいと思った「名作」トップ10を厳選。その中から6位「AIの進出が生み出す、空前の大失業時代」を紹介する。

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 日米で融資のスピードが全く違うという話の続きです。米国で私に融資をしたのは銀行ではなく、いわゆるフィンテックに属する連中です。私の過去の業務、実績、返済などに関わるデータをAIが処理して融資を決めます。あとで社長に話を聞きに行ったところ、唯一困ったのは日本人に融資をするのが初めてで、返済行動パターンのデータがなかったことだと聞かされました。彼らはそのデータを有償で入手したそうです。

 つまり、金融業の世界では、

(1)少なくとも過去の実績に基づいた判断はAIに任せた方が早く、正確で、人間の介在する余地はない
(2)いわゆるヒューマンコンタクトが要求される分野は残ると思われるが、それはごく一部であって、今の給与水準は正当化できない
(3)AIは過去のデータのないことは判断できず、新たなビジネスや人材に対する融資判定能力はない

 ということがわかります。読者の皆様の周りはいかがですか? 金融業の例に当てはめてみると、失礼ながら、恐らく既にAIで解決可能な業務にまだ従事している、という方が大半ではないでしょうか。私がみる日本企業の、特にえらい方は自らの実績に基づいて「これはこうなる」とか「やっちゃいけない」などの経験則を使っている方がほとんど。「自分の頭で何か新しいものを作り出している」という方はほぼ皆無、という現実があります。

 この「新しいことを考える」能力は、AIにとって一番の苦手種目です。一方で、過去の出来事、しかも将棋や碁のようにルールに例外がないフィールドでは人間はAIにかないません。人間が勝てるとすると、過去にはない何かを生み出すこと以外に道はありません(羽生善治さんは最近その道へ踏み出し始めたような気がします)。

 
 米国では失業者が戦後まれなレベルで減少しています。労働力が不足すれば、賃金を上げて労働者を確保するしか解決策はないはずなのに、現実は全くと言っていいほど上昇していません。年間物価上昇率とトントンといったところです。一体何が起きているのか。答えはAIの進出以外にありません。業務が増えても、企業が「AIでカバーできる」と判断すれば、賃金を上げて人を確保する必要はありません。社会全体でみると賃金が上がらないことはメークセンスですね。

 産業革命にせよ、フォード方式の大量生産にせよ、影響を受けたのは農業従事者だったり、工場労働者だったりという社会の一部でした。ですが今回の変化(「AI革命」と呼んでいいかどうかはわかりませんが)では社会のあらゆるレベルが影響を受け、人類が経験をしたことのない大失業時代を目前にしている、という現実があるのです。

※AERA 2018年8月27日号