米海軍の病院船「マーシー」。タンカーを改装した7万トンの大型船だ。国際条約に基づき、白地に赤十字の外装となっている(写真:gettyimages)
米海軍の病院船「マーシー」。タンカーを改装した7万トンの大型船だ。国際条約に基づき、白地に赤十字の外装となっている(写真:gettyimages)
この記事の写真をすべて見る
甲板にはヘリが着艦して傷病者や物資を運べるほか、2隻の大型はしけ船も積む(写真:gettyimages)
甲板にはヘリが着艦して傷病者や物資を運べるほか、2隻の大型はしけ船も積む(写真:gettyimages)
艦内には12の手術室があり、手術ロボット、CTなど最新鋭の医療機器を備える (c)朝日新聞社
艦内には12の手術室があり、手術ロボット、CTなど最新鋭の医療機器を備える (c)朝日新聞社

 今後の新型コロナウイルスの対応で注目されている移動する病院「病院船」。実は阪神大震災、東日本大震災でもその必要性が議論されてきたが、建造実現には至らなかった。AERA2020年3月2日号で掲載された記事を紹介する。

【写真】米海軍の病院船「マーシー」の船内の様子

*  *  *
 
 日本で「病院船保有」をおそらく最初に唱えた政治家は衛藤征士郎衆議院議員(自民)だ。阪神・淡路大震災が発生した直後、ヘリコプターで現地を訪れ、道路が寸断され、被災者が孤立している状況を見て「海に囲まれた日本では海上からの救援が重要」と考えた。同年8月に防衛庁長官に就任し、自民党内で病院船建造の研究会を作ったが、財政事情で実現しなかった。

 ところがまたも11年3月に東日本大震災が起き、津波で病院が壊滅することもあったため、「今度こそは」と翌月「病院船建造推進、超党派議員連盟」を結成して会長となり、当時与党だった民主党や公明党の議員も参加した。

 同年の第3次補正予算では調査費3千万円が付いたが、次の年度で要請した設計費1億円は予算計上されなかった。1隻約350億円とも試算された建造費に、第2次安倍内閣の防災担当大臣は冷淡だった、と衛藤氏は残念がる。

 その頃にもし建造を始めていれば、今回の新型コロナウイルスへの対応でもかなり役立った可能性は高いだろう。

 建造費の試算には疑問符も付く。高速船を新造すれば高くつくが、米国の病院船は中古タンカーを改装したものだ。英国の調査会社の中古船リストでは、3万7千トン積み、船齢5年のバルクキャリア(穀物、石炭などをばら積みする船)が約18.7億円で売りに出ている。その程度の価格の船は少なくない。それらを改装して病室や飛行甲板を設け、医療機器を搭載しても、200億円程度で済むのではないか、とも思える。

 船は毎年3カ月近くは定期点検・整備でドック入りする。病院船3隻と2組の乗組員がいれば、1隻を海外の災害救援や在外邦人の戦乱、暴動などからの避難といった目的で出動させても、1隻は国内の災害に備えて待機させることができる。自衛隊には医官が約1千人、看護官も約1千人いるから、当番を決めておき、病院船が出港した後に大型ヘリコプターで乗り込むことも可能だろう。

次のページ