働き方の自由度が高まっている。人生100年時代を迎え、70歳まで働くために息切れしないよう、一度ペースを落とす人。逆にペースを上げる人。いずれの場合も、決めるのは個人だ。AERA2020年2月17日号では両方のケースをレポートしたが、40代で大手企業のコンサルタントから宇宙ベンチャーに転職した男性は、ある「大義」を掲げていた。安定を捨ててでも、手に入れたかったものがあるという。
【写真】世界最大規模の宇宙カンファレンスIACに参加したispaceのメンバーたち
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半期ごとの業務面談。個室で向かい合った上司から厳しい表情でこう言われた。
「最近、1人で仕事しているんじゃないか」
そんなわけはなかった。掛け持ちで担当している複数の案件は、すべて3~4人のチームで取り組んでいる。上級コンサルタントとしてチーム内の若手を引っ張る立場でもあった。
だが否定しかけて、言葉に詰まった。たしかに、このところ社外の営業に忙しく、社内にいないことが多い。同じチームの後輩から「ミーティングしたいのになかなか捕まらない」と苦言を呈されたこともあった。
上司が諭すようにこう続けた。
「社外活動に熱心なのもいいが、会社に助けられて働いているんだから……」
そう言われた瞬間、「視界がバアーって開けたように感じた」と佐藤将史さん(42)は2年前のことを振り返った。
「今の自分は本当に会社に助けられているか?と疑問を持つようになったんです」
佐藤さんが16年間勤務した野村総合研究所(NRI)から宇宙ベンチャー「ispace」(本社・東京)に転職したのは昨年6月だ。月面探査事業を担う同社は、世界でしのぎを削る有望ベンチャーだ。とはいえ、グループ企業を含むと従業員1万数千人規模の東証1部上場企業から、約100人のベンチャーへの転身を決意するのには相当な葛藤があったという。
東京大学、同大学院で地球惑星物理学を専攻した佐藤さんにとって、研究者として世界で活躍することは幼いころからの憧れだった。そんな佐藤さんが博士課程を断念したのは、優秀な研究人材が多いことを実感したからでもある。にもかかわらず、日本の企業社会は文系卒の経営者が牛耳り、理系の人たちは不遇をかこっている――。そう考える佐藤さんがNRIに入ったのは、理系人材をもり立てていきたいという使命感があったからだ。