感染者が増えるなか、人々の不安も増している。「中国人を入国禁止に」「さっさと帰れ」といった過激な発言もSNSに溢れる。不安をヘイトにつなげないためには何が必要か。 AERA2020年2月17日号から。
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新型肺炎の感染拡大を水際で防ぐため、日本を含め、中国からの入国を制限する国や地域が相次いでいる。アメリカやニュージーランド、フィリピンは中国全土からの入国を禁止した。
2月4日、新型肺炎をめぐる二つの印象的な記者会見が行われた。ひとつめの記者会見は、アントニオ・グテーレス国連事務総長によるものだ。
「人種を理由にした差別や人権侵害を懸念している」
グテーレス総長はこう発言し、新型肺炎の感染拡大を受けて、一部の地域で中国人やアジアの人たちに対する差別が起きているという懸念を表明した。
日本でも、「中国人を入国禁止に」「さっさと帰れ」といった過激な発信がSNS上にあふれている。立正大学心理学部の高橋尚也准教授は、こうした心理的な背景をこう指摘する。
「中国人を避ける行為などは、新型コロナウイルスに恐怖を感じているからです。その不快さを低減させようとして出てくる行動が、差別や過剰な反応をもたらしていると考えられます」
差別をする意図はなくても、街中で中国語を話す人を見かけると、つい身構えてしまう人もいるだろう。不安をヘイトにつなげないためには、何が必要か。
「自分が感じているストレスの原因が中国の人ではなく、『あくまで自分のウイルスへの恐怖感だ』ということを理解できれば、差別や過剰な対応は減るはずです。ウイルスの正体がまだあいまいで、事実がはっきりしていないことを理解することも重要です。根拠がない情報に踊らされず、内外の正式発表に耳を傾けてください」(同)
もうひとつの記者会見は、前者とは対照的だ。中国外務省の華春瑩(ホワチュンイン)報道局長は、記者への感染拡大防止のためにSNS「微信(ウィーチャット)」上で行われた会見で、こう謝意を述べた。