世界中で感染が拡大する新型コロナウイルス。増殖する過程で性質が変わり、より症状が重くなり、致死率が高まる恐れもある。だが、今回のウイルスではその可能性は低い見方も出ている。一体なぜのか。AERA2020年2月17日号では、ウイルスの性質について解説する。
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感染の拡大に加えて心配されるのが、ウイルスの「変異」だ。
ウイルスの怖さは、感染力とともに患者の症状を重くさせる「病原性」が大きく影響する。感染した人のうち亡くなった人の割合にあたる「致死率」が、病原性を示す指標になる。
SARSウイルスの致死率は9.6%。今回は、WHOのデータでは6日現在2%で、SARSよりはかなり低い。死亡例は武漢で突出して多く、今後、感染の実態が明らかになるにつれて、致死率はさらに下がるという見方もある。
しかし、コロナウイルスは遺伝子が変異を起こし、性質を変えやすい。広がりを続けるウイルスが変異を起こして病原性を増し、SARS並みの致死率に至る恐れはないのか。
SARSの流行時、国立感染症研究所で対策にあたった田口文広・元日本獣医生命科学大教授によると、マウスでコロナウイルスの感染を繰り返しているうち、病原性が高くなったケースがある。ただ、「自然界でそのようなことが起こる可能性は、感染力の強い今回のウイルスではかなり低い」とみる。
ウイルスとしては、少しでも自分の仲間を増やしたい。病原性が高すぎて、すみつく生き物(たとえば人間)を殺してしまえば、増えることができない。SARSウイルスも人間のあいだで流行する際に変異を起こしたが、それによって病原性はむしろ下がったとの研究もある。
すみつく人間を重症にしないほうが、ウイルスも生き残り続ける確率が高くなる。大阪健康安全基盤研究所の奥野良信理事長も、ウイルスが「強毒化」する恐れは高くないとみる。
もちろん、油断は禁物だ。現段階の致死率2%は、1918年に出現し国内でも40万人が死亡したと推定される「スペインかぜ(インフルエンザ)」と同等だ。日本政府が想定し、死亡者数が最大で64万人にのぼると見込む新型インフルエンザの致死率(重度)も2%。新型コロナウイルスへのワクチンや治療薬の開発は始まっているが、実用化にはまだ時間がかかるとみられる。
パンデミックの可能性があり、致死率の低下がはっきりしない現状では、やはり感染の広がりを一人ひとりが抑えるしかない。こまめな手洗いが、その一歩となる。(朝日新聞編集委員・田村建二)
※AERA 2020年2月17日号より抜粋