中国・武漢から世界に広がった新型コロナウイルス。武漢市当局の初動の遅れからは隠蔽が疑われ、封鎖に際しては事前に500万人が脱出したという。人の命を守るための危機管理は適切だったのか。AERA2020年2月10日号から。
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新型コロナウイルスの1月31日夕現在の感染者は、中国当局の発表によると、中国だけで9692人。死者も213人に達した。事態は時間を追うごとに進行している。2003年に蔓延した重症急性呼吸器症候群(SARS)を上回る勢いで感染が拡大している。
病原性や感染力がはっきりとわからない不安の中で、われわれがこの新型コロナウイルスを恐れるのは、増え続ける数字を目の当たりにして「感染して肺炎が重症化したら死んでしまうのでは」と思うからだろう。逆に、安心するのは、公表される情報から沈静化してウイルスが抑え込まれたと確信できた場合だ。
その情報が信用に値しないものだったら、どうだろうか。
すでに、不確実な情報が混乱を招いた例はある。中国政府の国家衛生健康委員会の馬暁偉主任は1月26日に「ウイルスの感染力が増している傾向がある」と述べた。多くの人が恐怖しただろう。
だが、国際医療福祉大学の和田耕治教授によると、
「一般的には、ウイルスはヒトからヒトに感染する過程においてより感染しやすいものが残っていくわけです。感染して発症するかどうかはその人の免疫や健康状態によって決まります」
情報操作をする意図があったかはわからないが、「ウイルスの感染力が増している傾向がある」という中国政府の発表は、詳しい説明を欠いたために、結果的に人々の不安をあおるだけとなった。
次は、情報の取り扱いの失敗だ。発生源の中国湖北省武漢市の周先旺市長は1月27日になって、中国国営中央テレビのインタビューに「(感染状況の)情報公開が遅れた」「地方政府は情報を得ても、権限が与えられなければ発表することはできない」などと述べた。初動ミスで、感染拡大につながった可能性を十分に示唆する発言だった。
実際、問題はどのような経過をたどったのか。
原因不明とされていたウイルス性の肺炎患者が最初に武漢市で見つかったのが昨年12月12日だった。年が明けて1月9日に患者から新型コロナウイルスを検出したことが判明した。