撮影:野辺地ジョージ
撮影:野辺地ジョージ

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 昨年夏、野辺地(のべち)ジョージさんはカナダ西部のバンクーバーからアラスカ州・デナリ(旧マッキンリー、標高6190メートル)へ、車で旅をした。

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「久しぶりに燃えた、というか、撮影した枚数も多かった。道路に光が当たって奇麗だったので、車を止めて写真を撮ったら、その後に嵐が来て、さらに美しくなったり、動物が現れたり。ここもいい、あそこもいいと思いながら旅をした。そういうワクワク感がありました」

 しかし当初、周囲からは「むちゃをするな」と、止められた。「せいぜいロッキーまで行って、帰ってくればいいじゃないか、と言われました」。

 実は、この旅、野辺地さんの新婚旅行でもあった。であれば、往復1万キロにもおよぶロードトリップは確かに長い。

「でも、こういう機会はもう2度とないかも知れないので、ちょっと大変だろうけど、アラスカまで行きたいねって。まあ、それがもともとのモチベーションだったのですが、ロッキーのさらに北には行ったことがなかったので、ぜひ一度見てみたいという気持ちが強かった。自分のルーツをたどる、っていうことが大切だった」

撮影:野辺地ジョージ
撮影:野辺地ジョージ

■大橋巨泉が家に来た

 カナダ人の父と日本人の母を持つ野辺地さんは1980年、東京で生まれた。

 小学生のころ、夏休みになると、家族でカナダを訪れ、キャンピングカーを借りて2~3週間、ロッキーの山々を旅した。

「ときには北海道・小樽に住む祖父母も加わって、あちこち回った。祖父は高校の先生で、自然が大好きだった。いつもぼくに自然のことを教えてくれました。一緒に動物を観察したりもした。そんなことがあって、ぼくも自然が大好きになった。アラスカについても『ナショナルジオグラフィック』でよく記事を目にして憧れていました」

 当時、父親はアルバータ州政府の在日事務所に勤めていた。

「家でときどきレセプションをしたとき、大橋巨泉さんが来ていました。OKギフトショップをバンフにオープンしたり、カナディアン航空がカルガリー直行便を飛ばしたり、80年代のロッキーブームには父が結構関わっていました」

 91年、一家はカナダ・アルバータ州の州都エドモントンに引っ越した。

 その後、野辺地さんは2002年にバンクーバーのブリティッシュコロンビア大学を卒業すると、日本に戻り、証券会社に就職した。そして11年、ニューヨークに転勤した。

「14年秋にニューヨークのフォトフェスティバルを見たとき、こんな素晴らしい写真に関われるような人生のほうが面白いな、と思った。それで翌年、会社を辞めました」

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デナリからの呼び声