気になるのは、ヒトとヒトとの間でどの程度、感染するかだ。中国の地元当局は当初、「報告されていない」としていた。ところが、その後「可能性は排除できない」と見解を変えた。夫婦で発症したケースで、妻が海鮮市場との接触を否定している事例があったからだ。

 それに加えて今回の神奈川の男性の感染。WHO(世界保健機関)は、家族間など限られた条件下で感染する可能性を指摘しつつも、持続的なヒトからヒトへの感染の明らかな証拠はないとしている。感染症に詳しい川崎市健康安全研究所長の岡部信彦医師(72)も「鳥インフルエンザH5N1の場合もヒトからヒトへの感染は限定的でした。今回はそれよりはるかに致死率が低そうなので、ただちに不安が広がるような状況ではないと考えられる」という。

 ただし、前出の上医師はこんな考え方も提示する。

「パニックが起きないように抑制的な見解が示されることがある。福島の原発事故も同じでした。警戒はしておくべきです」

 今後注目すべき点はあるのか。

「予防対策をしっかりとっている医療従事者に感染者が出るかどうかで、ウイルスの感染力の強さをみることができるはずです」(上医師)

 今年の旧正月(春節)は1月下旬。中国政府によれば、この期間に海外旅行や帰省で移動する人は延べ30億人。日本にも70万人以上が来日するとみられる。ワクチンも治療薬もない新型ウイルスの場合、予防を徹底するしかない。前出の岡部医師も「一般大衆に大きく広がる心配度は低いが、今後も日本に入ってくるという前提でいる必要はある」と指摘する。まずは各人でうがいや手洗い、咳エチケットを徹底するべきだ。(編集部・小田健司)

AERA 2020年1月27日号