アメリカのキッズメニュー。大人向けの食べ物を少なくしただけで、お子さまランチのような特別感はありません(写真/著者提供)
アメリカのキッズメニュー。大人向けの食べ物を少なくしただけで、お子さまランチのような特別感はありません(写真/著者提供)
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 私の親はたいへん食に厳しい人で、コーラは歯が溶ける、カップラーメンはガンになるといって子どもに与えることは一切ありませんでした。ファストフードやジャンクフードだけではなく、子ども向けに作られた食べ物も目の敵にしていたようです。子どもでも食べられる甘口のカレールー、小分けのパッケージ一つ一つになぞなぞが出題されているふりかけ、キャラクターの顔が描かれた高野豆腐など、子どもの食を促すべく創意工夫が施された商品の数々を、私は大人になってから初めて知りました。

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 お子さまランチも、そのひとつでした。私は現在、アメリカに住んでいるのですが、先日2年ぶりに子ども連れで一時帰国をしました。厳しかった両親はすっかり丸くなり、孫の顔を見て相好を崩して、ほら、なんでも好きなものを頼んでいいよとレストランで子ども用のメニューを差し出しました。3歳の娘が指さすのは、もちろんお子さまランチです。そのようにして私は、齢三十三にして初めてお子さまランチというものを目にしました。

 昨年から「ここがヘンだよ!日本の育児」というタイトルで日米の子育て事情を比較してきましたが、お子さまランチほどヘンな日本文化はありません。まず、器がおかしい。新幹線の形をしているのです。日本が誇るこの超高速列車は、空気抵抗を抑えるため、騒音を減らすために先頭が流線型になっているといいます。そのシュッと尖った鼻先は、食事の器にすると非常に場所を取ります。大人の手のひらに収まるくらいの食べ物しか盛られていないにもかかわらず、器の大きさにつられて量がたっぷりあるように錯覚してしまいます。おまけに子どもは珍しい器に興奮し、普段はカタツムリの速度でこなす食事を一瞬のうちに飲み込んでしまいます。おかしい。

 栄養バランスもおかしい。緑の成分がパセリしかありません。付け合わせのパセリを食べるか否かはしばしば議論の種になりますが、こと子どもに関しては、あんな苦いもじゃもじゃを口にする子がいるとは考えにくい。ほうれん草の胡麻和えですら食べないのですから。だからお子さまランチのパセリはただの彩りであり、お子さまランチには野菜がほとんど含まれていないことになります。ふだん野菜を食べなさいと口すっぱく教えている家庭でも、お子さまランチを頼んでしまったら最後「人類は野菜を食べなくても死にはしない」という事実を子どもに知られてしまいます。

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