経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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「ヴィシェグラード4」というグループがある。東欧の四つの国々の集まりだ。チェコ共和国、ポーランド、ハンガリー、スロバキアの顔ぶれである。1991年に結成された。
ヴィシェグラードはハンガリーの古都だ。ここで、1335年に当時のボヘミア・ポーランド・ハンガリーの3カ国が会議を開いた。現代のヴィシェグラード組も、それにならって結成場所を選んだ。この現代版ヴィシェグラード組に異変が起きている。
4カ国は、いずれもEU加盟国だ。だが、いずれの国でも、右翼排外主義タイプの政治家たちが「愛国」の反旗を翻して、人々のEU離れを煽り立てている。彼らには、西欧型民主主義のお仕着せが気に食わない。司法の独立や言論の自由をもみ消そうとする。移民難民を排斥する。イスラム教徒を差別する。国粋主義の暗雲がヴィシェグラード4の空に垂れこめている。
それに対して、もう一つのヴィシェグラード組が抵抗ののろしを上げた。4カ国それぞれの首都の知事さんたちである。チェコのプラハ、ポーランドのワルシャワ、ハンガリーのブダペスト、スロバキアのブラティスラヴァ。これらの4都市は「自由都市協定」を結ぶ。4人の知事さんたちがそう宣言した。
彼らは高らかにうたい上げる。ポピュリストたちの排外主義には従わない。民主主義を守り抜く。言論の自由を確保する。国の方針がどうあれ、我ら自由都市グループは法の支配を尊重していく。人権を擁護し、多様性と包摂性を尊重する。独裁体制には屈しない。
素晴らしいことだ。彼らの勇気と魂の健やかさに心から敬意を表する。だが、気になることが一つある。自由都市の4人組がその旗印を高く大きく掲げれば掲げるほど、彼らと地方都市の住人たちとの間に溝が出来てしまうことにならないか。
いずれの国でも、ポピュリスト政治への支持は地方において高い。都市部のエリート族に何が分かるか。あなたたちの辛さは我らが一番よく知っている。国粋主義者たちの魔のささやきが、深く強く人々の心にしみとおってしまわないだろうか。そうならないことを祈りつつ、自由都市の4人組にエールを送る。
※AERA 2019年12月30日号-2020年1月6日合併号