睡眠ができなかった理由には、緊張だけでなく時差ボケもあった。火曜日に現地入りし、試合は3日後の金曜。時差調整が苦手な紀平にとっては短すぎた。
ショートは、トリプルアクセルを美しく降りたアリョーナ・コストルナヤ(16)が首位。演技を完璧にまとめたアリーナ・ザギトワ(17)とアンナ・シェルバコワ(15)が2、3位となる。トリプルアクセルに初挑戦したが転倒したアレクサンドラ・トルソワ(15)は5位発進となった。
シェルバコワとトルソワは、フリーで4回転を跳んで巻き返すことは必至。紀平は考えた。
「今季、4回転を入れようか迷うことが多かったけれど、ショートでのミスのお陰もあって『絶対にやろう』と気持ちが変わりました」
フリー本番では、美しい回転で4回転を回るも転倒したが、収穫は多かった。
「やはり1回目に入れる試合が、一番不安だったと思います。それを経験できたので、今後の試合はずっと入れるつもりで、毎日練習しようと思います」
本番を経験したことで、練習とは違う気づきもあった。
「やはり転んで体力を消耗したことで、次のトリプルアクセルが体力的にキツく感じました。これからは『4回転サルコーでどんな着氷になっても最後まで滑り通す』という練習を、毎日やりたいです」
優勝は、トリプルアクセルを計3本降りたコストルナヤ。4回転3本に挑戦したシェルバコワが2位に追い上げ、4回転5本に挑んだトルソワは二つミスがあり3位。若手3人が表彰台を独占し、紀平は4位だった。
「ロシアの方々は、どんな攻めた構成でもいい演技をしていました。『その試合の、その時間に、一番いいものを持っていく』というのが私の足りないところだなと思いました」
日本のシニア女子初となる4回転の成功は持ち越された。12月19日からの全日本選手権がリベンジの舞台だ。(ライター・野口美恵)
※AERA 2019年12月23日号