今日もたくさんの仕事を押し付けられた。権限はないのに重い責任を負わされる……。そんな思いが血圧を上昇させる(撮影・片山菜緒子)
今日もたくさんの仕事を押し付けられた。権限はないのに重い責任を負わされる……。そんな思いが血圧を上昇させる(撮影・片山菜緒子)
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図版は取材を元に編集部で作成(AERA 2019年12月23日号より)
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図版は取材を元に編集部で作成(AERA 2019年12月23日号より)

 過重労働や人間関係など、仕事や職場にまつわる悩みはつきない。血圧は「自分を映す鏡」と言われ、心身の状態が如実に表れる。サイレントキラーの出現を、見逃してはならない。 AERA 2019年12月23日号では、診察室では発見できない高血圧の存在を解説する。

【高血圧が引き起こす病気はこちら】

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 大手旅行会社で働く女性(39)は昨年1月、会社でひどい頭痛に襲われた。医務室に行き、血圧を測ってもらうと上が152mmHg(水銀柱ミリメートル)、下が90mmHgもある。保健師にも、「ずいぶん高いですね」と心配された。

 学生時代は低血圧に悩まされていたし、社会人になってからは毎年欠かさず健診を受けていた。高血圧を指摘されたことは一度もない。高血圧だった叔父が脳出血で倒れて入院したという話を母から聞いたばかりで不安になり、翌週、有休をとって近所の内科を受診した。ところが血圧は正常値内。医師からは「たまたまでは」と言われた。

 納得がいかず、コンパクトな手首式の血圧計を通販で購入し、一日に何度か測ってみることにした。すると帰宅後や休日は正常値内におさまっているのに、出勤の間や仕事中は血圧が高くなることがわかった。10日ほど記録をつけて循環器内科医を受診すると、仮面高血圧と診断された。

 高血圧患者は、日本に4300万人以上いると言われる。そもそも血圧とは、心臓から流れてくる血液が血管の内壁を押す力のことだ。上の血圧(収縮期血圧)は心臓が収縮して血液を押し出すときの圧力、下の血圧(拡張期血圧)は心臓が拡張し、血液が余勢で血管を流れているときの圧力を示す。

 この圧力が高くなり続けている状態を高血圧と言い、140mmHg/90mmHg以上だと高血圧症と診断される。血液の圧力が高いと、血管に負担がかかって動脈が傷つき、さまざまな疾患が引き起こされる。脳出血や心筋梗塞、狭心症など、命に直結する疾患が多いが、自覚症状がなく進行するために「サイレントキラー」と呼ばれる。

 仮面高血圧とは、実際は高血圧なのに、病院などで測ると正常値になることをいう。東京都健康長寿医療センター顧問の桑島巌医師はこう語る。

「驚いたりドキドキしたときに、一時的に血圧が上がるのは問題ありません。ただし、1日8時間以上を過ごす職場において高血圧の状態が続けば、その時間ずっと血管に負担がかかることになり、注意が必要です」

 仮面高血圧のうち、職場でのみ血圧が高くなることを職場高血圧という。

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