「DNA鑑定にしても、大学など12機関に分析を依頼していて、機器や担当者の知識や技量にも差が生じます。どの機関も専門ではないから、鑑定の段階で何年も滞っているのが現状。厚労省は米国のように専用のラボを作るべき。厚労省の霊安室で段ボールに入れたまま、4年も5年も放置されるのであれば、土から掘り返さないほうが後々の鑑定に役立ったのではないかと後悔しています。遺族会の会長が焼骨に固執する理由はわかりませんが、私たちと一緒に収集に参加するご遺族でそんなことを言う方には、一人も会ったことがありません。遺族会が、厚労省に間違った情報を伝えられているのではないかと思います。意地になって焼骨を続けて証拠隠滅を図る厚労省は、氷山が見えているのに舵を切らない船長のようなものです」(赤木さん)

 大学時代にJYMAに入団、国内外の現場を数多く経験してきた遺骨収集の第一人者である赤木さんは、厚労省が主導権を握る今の体制は既に破綻しており、抜本的に見直すべきと訴える。

 厚労省はDNA鑑定が可能な遺骨についても、身元を特定する遺品がない限りは行わないという「原則」を盾に、遺族の要望があっても鑑定を拒んできた。毎日新聞記者、栗原俊雄さん(52)がこの事実を報じ、国会で野党議員が追及し、この10月、ようやく硫黄島などの遺骨は遺品がなくてもDNA鑑定を行うよう方針転換したところだ。栗原さんは言う。

「現実的に、今手元にあるものは遺品がなくてもしっかり鑑定すべきです。その後は日本国内で、遺族を比較的把握しやすい沖縄と硫黄島に選択と集中をして進めてほしい。今は遺族に手をあげてもらう方式ですが、発想を変えて全員から唾液などによりわかるDNA情報を提供してもらうべきでしょう。長年取材を続けてきて、厚労省は遺骨収集についても、普通の事務仕事と同じように帳尻が合えばいいという感覚でやっているとしか思えない。私は硫黄島での遺骨収容に参加したことがあります。老齢になった遺族が、現場で必死に亡き父の遺骨を捜していました。その姿を思い浮かべたら、そんないい加減なことはできないはずです」

(編集部・大平誠)

AERA 2019年12月9日号より抜粋