現在のショート「秋によせて(オトナル)」も昨季に続いて2季目。長く演じていると慣れも出てくる。そこで、愛着があり、少し懐かしいプログラムの曲を頭の中で流して演技を再現することで心をリセットし、フレッシュな気持ちで本番を迎えようとした。夜のショート本番では冒頭の4回転サルコーを狙い通り、華麗に決めた。
演技中に、ひやっとする場面はあった。練習でも跳んでいた4回転トーループ─3回転トーループの連続ジャンプは4回転の着氷時に右ひざが深く曲がり、スピードが落ちてしまった。あわや連続ジャンプ失敗の事態でも、決して慌てない。右足に力を込めて跳び上がり、3回転トーループも回りきった。
「絶対、4─3(4回転─3回転の連続ジャンプ)を逃げるという選択肢はなかったので、僕のなかでは。どんな体勢からでも3(3回転ジャンプ)はつけてやると思っていたので。あの状況でつけられるように練習はしています。どんな状況でも3回転トーループはつける練習はしているので、その成果が出たと思います」
フィニッシュポーズの後、羽生は天を仰ぎ、次に2度、3度、ポンポンと軽く拍手をした。今季のGPシリーズ初戦のスケートカナダで出した109.60点にはわずかに及ばなかったが、109.34点で、2位を17点以上引き離した。演技内容はほぼ完璧。スピンやステップは最高難度のレベル4を獲得。演技構成点は、スケート技術、要素のつなぎ、身のこなし、振り付け、曲の解釈の5項目すべてで9.5点以上(10点満点)の評価を得た。
「えっと、まず天を仰いだのは、とりあえずよかった、ホッとしたっていう気持ちでいたのと、拍手は『パリの散歩道』(12-13年、13-14年シーズンのショートプログラム)、いつからか明確ではないんですけど、いい演技をしたときは拍手するって決めていたので、ショートは。ショートでいい演技をしたので、そのルーティンというか、拍手をしました。あとは、胸に手を当てたのは、とりあえず、みなさんの応援をちゃんと心で受け止めきれたよっていうのを自分自身に言い聞かせるっていうか、そういう感じでやっていました」
(朝日新聞スポーツ部・山下弘展)
※AERA 2019年12月9日号より抜粋