日本ワインは出汁の香りがするという人がいる。だから和食にもぴったり合うのだと。それって本当? 日本ワイン専門店の女将がお薦めする、うまい日本ワインとつまみの組み合わせを楽しむ。AERA 2019年12月2日号に掲載された、日本ワインとつまみの6つの組み合わせを紹介する。
* * *
日本ワインをおいしくしたのは誰か──。
「お客さんたち、つまり飲み手も一役買っていますよね」
そう話すのは、日本ワイン専門バー「日本ワイン中村」の女将、中村雅美さん(49)だ。
「日本ワインだけのバー? 商売にならないと思いますよ」
開店を相談した酒販店のそんなアドバイスを聞かなかったことにして、全国でも珍しい日本ワインだけを扱う店を開いたのは2016年1月。約26年勤めた老舗飲食店チェーンで、上司に打診された執行役員の椅子を袖にしての、脱サラ起業。背中を押したのが、日本ワインだ。
店長をしていたとき、勉強のつもりで口にして、衝撃を受けた。ワイン造りとは「醸造家が一生かけて、造りたいワインに近づけていくもの」。努力を惜しまない彼らの力に、少しでもなりたいと思った。
8席の店内では、中村さんがその時期にえりすぐった日本ワイン十数種を、グラスであれこれ楽しめる。ワンオペ営業だが、それぞれのワインと相性のいい料理も、ちょうどいい頃合いでカウンターに上がる。
まずはビギナーのための日本ワインの選び方を聞いてみた。
「日本ワインらしいものを試してみたいという方には、日本ならではのぶどう。甲州やマスカット・ベーリーAのワインですね」
一方、普段フランスワインを中心に飲んでいる人には、ブルゴーニュやボルドー品種のぶどうを使った日本ワインがおすすめ。ただし、工程や土壌がフランスとは大きく異なることは必ず説明する。
「例えばメルロー。同じ品種でも、日本で植えたものとフランスで植えたものでは、ワインの出来がまったく違う。日本のはしみじみとしてエレガント。フランスのは、土を噛んでいるような力強いワインです」
この日中村さんから「しみじみ」という形容を何度か聞いた。それってどういう意味ですか?
「日本ワインを知ってしまうと、最初からガツンとくる海外のワインは『疲れる』という話を聞きます。日本ワインは、最初のインパクトはやわらかいものの、中盤から飲み終わりまで、キレイに飲み進められる。パッと見は地味ながら、作りが丁寧というのはこういうこと。それが私の考える『しみじみ』です」