ポップ・ミュージックをポップ・ミュージックとして常に進化させつつも、歴史に刻んでいくことは、おそらくどんな作り手にとっても大きな命題だろう。しかも、それはある程度時間をかけないと、得られるものではない。
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もちろん、ただ時間をかければいいというものでもない。デビュー50周年記念展「細野観光 1969-2019」が六本木ヒルズで開かれている細野晴臣を見ても、そのことはよくわかる。彼がキャリア史上最高に、世代や指向を超えて多くのリスナーやミュージシャンから愛されているように、経験にあぐらをかくことなく、なおもトライし続ける姿があればこそ、手応えのある成果として広く届いていく。
逆に言えば、ポップ・ミュージックは時代をヴィヴィッドに映し出す鏡であり、ある種、消費されてしまっても仕方ないという徒花的な側面さえあるわけだ。そんなアンビバレントな宿命を考えると、一人の作り手が大衆音楽のフロントラインに立ち続けていくこと自体が過酷な大仕事と言っていいだろう。
今年30周年を迎えた高野寛は、あるいはその領域にあと少しで辿りつく……いや、もうとうに辿りついているソングライター、クリエイターだ。1964年生まれ。高橋幸宏のプロデュース曲でデビューし、トッド・ラングレンのプロデュースによる「虹の都へ」がオリコン・チャートの2位を獲得した時代から四半世紀以上が経過したが、ポップ・ミュージックの真ん中にいるという強い自覚を持った上での彼の挑戦が止まったことは一度もない。
そんな高野の最新作「City Folklore」。歌とギターを自ら担当した以外、サウンド・プロデューサーの冨田恵一に委ねた挑戦作だ。冨田恵一は冨田ラボとして作品も発表するプロデューサーで、これまでにキリンジ、MISIA、松任谷由実、平井堅ら数多くのアーティストを手がけてきた敏腕。作曲や演奏はもとより、アレンジ、録音、ミックスダウンまでレコーディングのほぼすべてのプロセスを自らのスタジオで行ってしまう、まさに彼自身が工房そのものと言ってもいいクリエイターだ。高野の今回の新作のレコーディングはそんな冨田のスタジオでしっかり顔を合わせて行われた。