ナンシー・ペロシ下院議長は9月24日、弾劾のための調査をすると正式に発表。それから1週間も経たないうちに、内部告発者は身元を隠したまま、下院委員会で証言する方向となった。トランプ氏の弁護士であり、元ニューヨーク市長のルディ・ジュリアーニ氏もウクライナ側と接触していたことが明らかになっており、下院に証言を求められている。

 ただし、下院は民主党が過半数を占めるが、上院は共和党53人、民主党45人、無党派2人と、共和党が多数派だ。有罪確定に必要な3分の2、つまり67票を集めるためには、共和党議員20人の協力が必要であり、トランプ氏を有罪にするのは困難だとの見方もある。しかし、弾劾手続きが始まったことで、共和党議員とトランプ支持者の間にも亀裂が生じ始めたと米メディアは報じている。

 これまでにもトランプ氏の危機はあった。婚外交渉していたポルノ女優への口止め料支払い、ロシア政府と共謀して大統領選挙を優位に展開したとされるロシアゲート、ロシアゲート捜査を主導していた連邦捜査局(FBI)トップの解任による司法妨害──。そのいずれも、トランプ氏は直接関わっていないなどとして、弾劾を逃れてきた。しかし、今回は違う。

 トランプ政権は、かなり追い詰められている。トランプ氏は反論のツイートを繰り返し、バプテスト派牧師ロバート・ジェフレス氏のコメントを引用して「民主党が大統領解任に成功したら、内戦が勃発するだろう」とつぶやき、これには共和党内からも抗議が起きた。

 下院は今後、大統領の犯罪容疑に当たる「訴因」を突き止め、弾劾決議案を本会議にかける。調査開始から採決までは長期にわたることもあり、今回もどれほどの時間を要するのかは見えていない。だが、ウクライナゲートは米政界と市民社会を大きく揺さぶっている。(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))

AERA 2019年10月14日号

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