「フェミニスト」を名乗る若い女性が増えている。フェミニズムが「クール」なものとしてポジティブに捉えられているのだ。その背景とは。AERA 2019年9月30日号に掲載された記事を紹介する。
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「あっこあっこゴリラ、あっこあっこゴリラ……」
音楽、アート、社会をひとつにつなぐことをテーマとしたイベント「THE M/ALL」。ラッパーのあっこゴリラさんのライブには大勢の観客が詰めかけた。代表曲「GRRRLISM」で「MY BODY MY CHOICE」と歌う彼女のツイッターのプロフィル欄には「FEMINIST」の文字がある。
ロクサーヌ・ゲイの『バッド・フェミニスト』の訳者あとがきで、英語圏での話ではあるが、訳者の野中モモさんはこう書いている。
「二〇一〇年代、特にここ数年は、若い世代の女性に向けたメディアで、それこそ『いけてる子は全員フェミニスト』ぐらいの勢いを感じる」(『バッド・フェミニスト』亜紀書房、388ページ)
フェミニズムの定義はいろいろあるが、シンプルに「性差別のない社会を実現するための考え方や活動」であるとしよう。一昔前まではフェミニズムの主張に賛同する時に、「私はフェミニストではないけど」と言う人は少なくなかった。「主張には賛成だ。しかしフェミニストだと思われるのは嫌だ。なぜならフェミニストとは怒りっぽく、男嫌いな人たちだから……」、そんなニュアンスが込められていた。しかし今、若い世代を中心に堂々と「フェミニスト」を名乗る女性が増えている。
背景のひとつと考えられるのは、「セレブのフェミニスト宣言」とでもいうべき動きだ。2013年にアメリカの人気歌手、ビヨンセ(38)は「Flawless」でナイジェリアの作家、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ(42)のスピーチ「男も女もみんなフェミニストでなきゃ」の一部を引用した。14年、映画「ハリー・ポッター」シリーズのハーマイオニー役で知られるイギリスの俳優、エマ・ワトソン(29)は国連本部の壇上に立ち、自分はフェミニストであると語った。これらの動きと呼応するかのように、日本でもファッション雑誌でフェミニズム特集が組まれるなどした。
●DIY精神と草の根的共感、ポジティブイメージ広がる
フェミニズムへのマイナスイメージをなくし、ポジティブに捉え直す。こうした動きは、1990年代前半のアメリカにも存在した。男性中心のパンクロックシーンにおける性差別的傾向に抗議して始まった「ライオットガール」というムーブメントは、ライブや集会、ジン(ZINE)のネットワークを通して女性たちが自らの考えを表現し、知識や経験を共有していった。代表的なバンド、ビキニ・キルのボーカルのキャスリーン・ハナ(50)は後に「フェミニストであることをすごくクールなことにしたかった」と語っている。
「Riot Grrrlというムーブメント」というパンフレットを書いた大垣有香さん(41)は、「ライオットガールはDIY精神に基づく活動を通して、アカデミックな場にあったフェミニズムを噛み砕き、草の根的に共感を広めていった」と指摘する。
前出のジンとは、インディペンデントで非商業的な、多くの場合ハンドメイドで制作された小冊子のこと。インターネットが普及する以前、個人の情報発信やインディペンデントな情報流通に大いに貢献し、現在でも独自の文化として存在している。