都内の私立大学教員(46)からは、こんな声もあがった。
「大学生の資質や能力を問う声が多いと思うが、大学のスケジュールから考えても無理だと思う。共通テストの採点期間になる1月中・下旬は、後期の試験やレポート提出、卒論や修論の口頭試問などの時期にあたる。真面目な学生であれば、この時期にアルバイトなどしている時間的余裕はない。真面目な学生であればですが……」
記述式導入の目的は、「思考力・判断力・表現力」の評価だ。果たしてそれが叶うのか、記述問題を日ごろ作成している高校や大学教員は、疑問視している。共著『どうする? どうなる? これからの「国語」教育』で問題提起する、静岡県立掛川西高校の駒形一路さん(56)は、「記述式試験は対話」だと言う。
「採点していると、作問者の想定を超える解答に出合うことがある。それは教員にとって喜びでもある」
採点基準を見直したり、模範解答を書き改めたりすることもある。ただし、これができるのは「百人単位まで」だと言う。
「共通テストでは採点は分担され、基準も細かく指定される。作問者の想定を超える解答は、評価されるどころか誤答と判断されるリスクもある」(駒形さん)
プレテストの記述式問題は、問題文にさまざまな条件がつき、複数の文書を読み合わせ解答する形式になっている。国語の入試問題に詳しい福井県立大学の木村小夜(さよ)教授(56)は言う。
「条件づけは解答のぶれ幅を抑えるのが目的で、採点の都合だと思います。だれでも独自の発想や文体を持っていて、その表現力をみるのが記述式の目的のはず。なのに、条件をさまざまつけることで、受験生を鋳型に押しこむことになる。プレテストを解いた印象では、問われているのは複数の資料から情報を『つまみ食いする力』と、条件などから答えるべき内容を慌ただしく『忖度(そんたく)する力』。本来求められるべき『思考力・判断力・表現力』とは異質のものになっています」