政府が韓国へ輸出規制強化措置を発表し、韓国内では日本製品の不買運動が起きるなど、日韓関係は一気に緊張した。しかし外務省はこの措置について、直前まで3品目が何なのかさえ知らされていなかったという。この「外務省外し」による弊害は小さくない。
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外務省が外されたことで、様々な問題が浮上した。
まず、日韓外交の停滞や経済失政で批判を浴びていた文在寅政権が息を吹き返した。文氏の支持率は7月、わずかだが上昇に転じた。「日本の暴挙による国難」を訴え、最低賃金の急速な引き上げや、朴槿恵前政権の疑惑を巡る大企業たたきなどで冷え込んでいた景気の責任を日本に押しつけた。輸出規制強化の対象とした3品目は、いずれも稼ぎ頭である半導体生産に欠かせない素材ばかり。あまりに過激な措置ゆえに、保守系の最大野党、自由韓国党は、日本たたきの流れにあらがえなかった。同党は、日本を批判する声明や国会決議を出す際、賛成に回らざるを得ない状況に陥った。
外務省OBの一人は「韓国の政情が頭に入っていれば、もっとうまく立ち回れたのではないか」と語る。
そして、当然だが、外交チャンネルも動かず、同盟国である米国に対して事前の通報ができなかった。米政府関係者は憤る。
「日本政府が、米側の了解は得ていたとか、米国はグリーンライトだったとか言って回っているらしいが、とんでもない言いがかりだ」
首相官邸が主戦論に傾いたため、米国の仲介も空回りした。米政府高官は7月30日、日韓双方に紛争を一時休止する「スタンド・スティル合意」を結ぶよう呼びかけていることを明らかにした。ところが、菅義偉官房長官は31日の会見で「そのような事実はない」と否定した。
日米関係筋によれば、米国は、韓国を「ホワイト国」から外す閣議決定が8月2日にも行われるとの情報を入手し、焦っていた。バンコクで2日に開かれる日米韓外相会談まで待っていては手遅れになるため、先手を打って政府高官が仲裁に乗り出した事実を明らかにしたという。
そもそも、米国の動きの背景については、日本外務省が米国務省に対して行った「トランプ米大統領かポンペオ国務長官が日本のカウンターパートに要請すれば、事態を変えられるかもしれない」というアドバイスが発端だったという。
だが、首相官邸に対する外務省の影響力がほとんどなかったことは、菅氏の発言を見れば一目瞭然だった。
韓国も外交チャンネルでの解決に限界を感じ、大統領府の鄭義溶(チョンウィヨン)国家安保室長を7月末、極秘で日本に派遣した。谷内正太郎国家安全保障局長と談判に至ったが、いかんせん、安倍氏も文氏も妥協を許さず、この最後の交渉も頓挫した。
そして問題は、外務省外しだけではなかった。