小学校卒業後、バングラデシュの首都ダッカに地方から出稼ぎにきた子どもたち。劣悪な環境に耐えながら、職人として誇りを持って働く彼らの姿をカメラが捉えた。
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「小学校には行ったけど中学校に行くお金がなくて、父さんに『おまえはダッカに行って働け』って言われたんだ」
13歳の少年ビジョイ君が表情を変えることなく話す。バングラデシュの首都ダッカにある三輪自動車の修理工場で働き始めて3年。一通りの修理は、もう一人でできるまでの腕前だ。
取材中、カメラアングルを変えながらせわしく動く私の存在など全く気に留めることなく、黙々と故障した車に向き合う。目視できない部分は手探りで作業を進め、質問には必要最小限の答えで返す。この道何十年の職人に話を聞いているような感覚に陥った。
ビジョイ君の実家は、ダッカから約100キロメートル南に離れたボリシャルにある。フェリーで一晩かけて移動する距離だ。父親から知人の名前と住所が書かれた紙を渡され、一人で都会にやってきた。
エアコン修理工場で働き始めて1週間のシャキーブ君(11)も、父親に言われてダッカで働き始めた。郊外に住む叔母の家から通う。見習いのため、まだ給料はもらっていない。
6月下旬から7月上旬にかけてダッカにある20軒以上の工場を訪ね、働く子どもたちに話を聞いた。大半が地方出身者で、小学校を卒業後、親に言われてダッカに来た。義務教育が小学校(5年間)までなのだ。
バングラデシュは近年経済成長がめざましく、貧困率は下がりつつある。だが、都市部の貧困率が21.3%なのに対し、農村部は35・2%と格差が大きく、都市部への人口流入が止まらない。
こうした農村出身者の就職先は、いわゆる不法登記の個人経営の工場などがほとんどだ。同国では非正規企業の割合が4割を占め、劣悪な環境、長時間労働、低賃金といった悪条件での労働を余儀なくされている。
農村部で職を得ることは難しく、小学校を終えた10歳前後の子どもたちも労働力として都市部にやってくる。ビジョイ君のように“子ども職人”となり、田舎の家族を支えているのだ。