DNAを使った様々な研究が急速に進化している。DNAを操作する技術は大きな研究所や大学だけでなく一般市民にも広がる。想像を絶するような「とんがった」研究も行われており、ルールづくりの必要性を指摘する声もある。
アメリカ・ニューヨーク市に暮らすセバスチャン・コチョバ氏は、自宅の一室で「ステーキ味のトマト」を生み出した。牛肉に含まれるミオグロビンというたんぱく質を作る遺伝子を、トマトに入れることでステーキのような味わいを実現したという。
香港のNGO団体は2015年、街にポイ捨てされているゴミからDNAを採取し、捨てた人の顔を再現したポスターを掲出して話題を呼んだ。作成には微量なDNAから目や髪の色、顔の輪郭などを分析する技術を持つ米国バージニア州の企業が協力。同社の技術は犯罪捜査にも応用されている。
ロンドンのデザイナー、ティナ・ゴヤンク氏は、10年に死去したイギリスを代表するデザイナー、アレキサンダー・マックイーンの髪の毛を入手し、そのDNAから皮膚を再生して、それを用いたバッグやレザージャケットの制作を試みている。ゴヤンク氏はマックイーンのシミやほくろが正確に再現された製品を通じて、「企業が個人の遺伝情報を商業利用することへの問題を提起したい」と述べている。
高度なバイオ技術が個人でも簡単に低コストで扱えるようになったことで、「趣味」として研究に取り組む人は日本でも増えている。杉崎麻友さんは、シェアオフィス方式の研究室「Beyond BioLAB TOKYO」の施設管理人として勤務する傍ら、細胞培養の技術を使って「自宅で鶏肉を培養」する試みを続ける。牧草地も生き物を殺す必要もない培養肉の研究は世界中で行われているがコストが高いのが問題。杉崎さんは扇風機を遠心分離機代わりにするなど工夫を凝らし、市民科学で研究を進める「Shojinmeat Project」というサークル活動の中で、仲間とともにコスト削減に挑む。