15年、三菱重工相模原ダイナボアーズからスタッフとしてオファーがあった。
「25歳の女性でプロ契約してもらえるようなチームはなかったし、トップクラスのチームと一緒に勉強できるならと思って、お仕事をいただきました。ですが、帰国して、年に3、4回しか試合ができない環境になってしまって……。友人たちはまだラグビーをしていたし」
プレーヤーとしてあきらめきれない思いが募る。1年半後の16年、再びオーストラリアに戻った。
計4回もの前十字靱帯断裂という大きなケガを乗り越え、州代表選手として国内リーグ「スーパーW」で活躍していた小野選手に、オーストラリア代表監督から声がかかったのは、18年のこと。3年以上という継続居住条件を満たしていなかったが、「代表選手と一緒にトレーニングを」と誘われた。そして今年、居住条件をクリアし、晴れて「おめでとう」の電話を受ける。
オーストラリア代表として一度でもプレーすれば、日本代表になることはできない。だが、小野選手には迷いはなかった。「毎週末試合に出て、認めてもらえたというステップがあるから、ここがわたしのホームです」
小野選手が笑顔でそう答える。とはいえ、もちろん日本に対する思いは変わらない。
「もしオーストラリアと日本が対戦したら? どっちを応援するか、ものすごく悩みます」
現在、日本代表の合宿メンバーに選ばれている山中亮平選手(31)も、こう言う。
「外国人選手は、見た目は外国人ですけど、気持ちは日本人なんですよ。逆に僕が他の国の代表になるとしたら相当な覚悟がいると思う。彼らの思いを、理解してほしいですね」
ラグビーW杯は、オリンピックとサッカーW杯に次ぐ「3番目に大きな国際スポーツ大会」と力強く語るのは、女性として初めて、オーストラリアラグビー協会のCEOの座についたラエリーン・カッスルさん(48)だ。
「6週間にわたって日本に世界のベストプレーヤーが集まるというのは、本当にすごいこと。ファンにとっては唯一無二の機会に、ボランティアを体験する人々にとってもすばらしい体験になる。試合と試合の間に、互いの文化を味わえる貴重な機会にもなるでしょう。ラグビーは、性別も国籍も関係なくあたたかく迎えるスポーツですから、スタジアムで一緒に素敵な時間を過ごすこともできます。これほど大きな意義のある大会はありませんよ」
ラグビーは誰にでも楽しめるスポーツだと小野選手も言う。
「足が速くなくても、背が小さくても、シャイな子でも、ちょっと怒りっぽくても(笑)、それを生かせるポジションがある。観る側も、いろんな人に会えて、一緒に分かち合える」
開幕まであと2カ月を切った。山中選手は日本チームの強みとして、低いタックルのような泥臭いプレー、常に動き続ける勤勉さ、そしてチーム力の高さをあげる。そしてこう続ける。
「日本でのW杯開催は、何にも代えがたい経験。もちろん、出場したいと思っています。自分も今年がラストという意気込みで臨んでいますし、日本チームも全力で頑張っているので、応援してください」
(文/朝日新聞出版・伏見美雪)
※AERA 2019年7月29日号