小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が発売中
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子育ては自分がされたことの繰り返しになることも。例えば、仕事の哲学が子どもへの呪いになっていないか自問してほしい(撮影/写真部・東川哲也)
子育ては自分がされたことの繰り返しになることも。例えば、仕事の哲学が子どもへの呪いになっていないか自問してほしい(撮影/写真部・東川哲也)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 中学受験で父親による教育虐待、父の会の指導で子どもが裸足でトイレ掃除。最近目にした記事では、子育てに熱心な男性たちが、パワハラ的指導を教育と勘違いしている例が気になります。

 働き方改革や男性の子育て奨励の影響で我が子に関わろうとする父親が増えるのはいいことですが、その関わり方が適切であるかどうか、まずは自分を疑うところから始める必要があります。子育ては、自分がされたことの繰り返しになりがちです。実はこれ、パンドラの箱を開けてしまうことでもあるのです。

 10年ほど前から、女性たちの毒母語りが始まりました。主に団塊ジュニアの働く女性たちが、専業主婦の母と同様には生きられないことに悩み、やがて母から刷り込まれた女らしさ・妻らしさ・母らしさの呪いに気づいて、苦しい胸の内を吐露したのです。日本の経済成長期に強化された「稼ぐ男・支える女」という性別役割分業が、共働き時代を生きる人たちをいまだに苦しめています。10年かけて女性たちがやったことは、いわば穏便な母殺しでした。ここへきてようやく、専業主婦の母のようには生きられないことに罪悪感を抱かずにいられるようになったのです。

 今度は、男性の番です。自分が信じているものは、もしかしたら呪いではないかと自問してほしい。仕事の哲学だと思っているものは、パワハラ礼賛の社畜量産システムによる洗脳ではないのか。我が子を鍛えることと、罪悪感を植え付けて支配することを取り違えていないだろうか。もしかして、自分は不安なのではないか。周囲の期待に応えられない負け犬になることに、今もずっと怯えているのではないか?

 呪いの連鎖を断ち切るには、自己を分析して、内なる親や上司を殺すことから始めるしかありません。男たちよ、弱い自分と向き合う勇気を。

AERA 2019年7月22日号