子どもたちとのやりとりの中でふと浮かんだ素朴な疑問を投げかけてみます。
すると、このクラスのリーダー的な存在のS君が真っ先にこう答えてくれました。
「頭の中で考えてることなんちゃうかな? たぶん脳みそが命令を出してると思うねん」
「それって、どういうこと? もう少し詳しく教えてよ」と食い下がる私。
「頭の中に信号機があって、やりたい時は『青』が光っていて、やりたくない時は『赤』が光ってるみたいなイメージやと思うわ」
何ともユニークな発想ではありませんか。
身近にある信号機を例にモチベーションの仕組みを解説しようとするアイデアに大変驚かされました。
テーマに関する既有知識の確認を終え、私はある一冊の絵本をみんなに紹介することにしました。
その絵本とは、ヨシタケシンスケさんの『ぼくのニセモノをつくるには』です。
「この人の絵本見たことある!」
ヒット作を連発しているだけあって、クラスの半数以上はヨシタケさんの作品をどこかで見たり聞いたりしたことがあるようです。
簡単にあらすじを書きます。
宿題、お手伝い、部屋の掃除などやりたくないことだらけの主人公「ぼく」。
その「ぼく」がおこづかいで一体のロボットを購入して、自分のニセモノとしてそれらの作業を全部やってもらおうと思いつくところから物語は始まります。
名前、家族、外見、性格、周りとの関係性……。自分のことをロボットにあれこれ説明するなかで、自分らしさとは何かを改めて考える「ぼく」。
物語の後半で「ぼく」が、自分のことを考えるのって面倒くさいけど、なんかちょっと楽しい気がすると語る場面があります。
まさに今回のプロジェクトを通じて子どもたちに感じてもらいたいことを代弁したようなメッセージが印象に残ります。
読み聞かせでは、ページをめくるたびに笑い声が響きました。ユーモラスな絵と内容は彼らのハートをがっちりつかみ、この絵本の世界観にみるみる引き込まれていきました。
その中で彼らは自分というものを形作る様々な要素や観点を知らず知らずのうちに絵本から学んでいったのです。
「自分らしさかあ……」
絵本の読み聞かせの後に思わずこぼれた誰かのつぶやき。たくらみキッズは探究の端緒に就いたばかりです。
(文/山田洋文)
※AERAオンライン限定記事