「逃亡犯条例」の改正案に反対する香港人のデモは、回を重ねるごとに参加者が増え、200万人近くに達して世界を驚かせた/6月16日、香港で (c)朝日新聞社
「逃亡犯条例」の改正案に反対する香港人のデモは、回を重ねるごとに参加者が増え、200万人近くに達して世界を驚かせた/6月16日、香港で (c)朝日新聞社
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 香港政府のトップを決める普通選挙化を求めた雨傘運動から5年。「逃亡犯条例」の改正案に反対する香港のデモは過去最大級の200万人近くに達した。このうねりは、法と言論の自由を奪われたくない、ここで生きたい、という香港人の叫びだ。デモが起きる前日まで現地にいた作家の星野博美がリポートする。

*  *  *

 5年前、この誌面で香港の雨傘運動の現地リポートを書いた時、私は「香港が泣いている」という題を選んだ。いまは、こう言わざるを得ない。

 香港が燃えている。そしてそれがどこへ行きつくのかはまだわからない。

 ここでは、香港人を突き動かした「無奈(モウノイ)」(やるせなさ)に的をしぼりたいと思う。

 6月9日、人口約700万の香港において、主催者発表で103万という驚異的な人数が路上に繰り出して声を上げた。

 実は私は、その前日まで香港にいた。目的は、毎年6月4日に開催される六四晩会(天安門事件の犠牲者を追悼するキャンドル集会)に参加し、六四記念館を訪れることだった。今年は天安門事件から30年という節目の年に当たる。今後、いつこのような集会が禁止されるかはわからない。行けるうちに行っておこう、という気持ちだった。

 念頭にあったのは、まさに今回の混乱の原因となった「逃亡犯条例改正案」がじき可決されるかもしれない、という予測である。これは犯罪容疑者の中国への移送を可能にするもので、香港人のみならず、香港に渡航した外国人まで、中国側の要請があれば引き渡しが可能になる。中国に対して意見を持つ人間が思想犯として引き渡される事態を香港人は即座に連想した。当然、思想や言論の自由は、よりいっそう制限されることになる。

 中国のタブーである六四にまつわる運動は真っ先に標的にされる可能性がある。そう思えば思うほど、プレッシャーにさらされながら、天安門事件の犠牲者家族の支援活動を続ける香港市民の勇気に感じ入ったものだ。

 そして帰国した翌日、103万人が路上に繰り出し、「反送中」(中国へ送るな)のシュプレヒコールを上げた。彼らの不安と怒りは、私の想像をはるかに超えていたのである。

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