──その憂慮があるなら、やはり賀詞決議に反対する選択肢もあったのでは。
我々が、天皇に関わる賀詞には無条件に何でも反対という態度を取っていたら、先ほど話した文面の問題点などを指摘しても説得力を持たないと思うんですね。憲法に定められた天皇の制度とは当面共存していくので、儀礼的な敬意は表する。ただし、国民主権に反するような問題点があったら認めませんよというのが、一番筋が通っていると思います。
天皇は「君主」ではない
──戦前の共産党には、天皇制反対を訴えて命を落とした方がたくさんいました。そのことはどう評価していますか。
戦前の絶対主義的な天皇制は、平和も民主主義も押しつぶす暗黒政治でした。そのもとで天皇制打倒の旗を掲げたことは全く正義の戦いだったと思います。そういう絶対的な権力を持った天皇制は戦後なくなったわけですから、我々の方針もそれに即した形で合理的なものにする必要があると考えています。
──天皇に対する共産党の立場が変わったのは、野党共闘を意識したためではとの見方もあります。
それは違います。先にお話ししたように、前回の天皇即位では反対した賀詞決議に今回私たちが賛成したのは、党の綱領を改定し、「君主制廃止」という課題を削除したのが大きな理由です。この綱領改定は、日本国憲法を徹底的に分析した結果、天皇は政治的な権能を一切持っておらず、いかなる意味でも「君主」とは呼べないと判断したためでした。「君主」がいないのに、「君主制廃止」はおかしいですよね。
一方で、結果的に生まれた効果もありました。その一つが、天皇の制度への賛否を超えて、当面の民主的改革に同意できる全ての人々と統一戦線をつくれるようになったことです。野党共闘が目的で綱領を変えたのではなく、あくまで結果なのです。
(聞き手/編集部・野村昌二、上栗崇)
※AERA 2019年6月17日号より抜粋