東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン代表。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数
東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン代表。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数
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※写真はイメージ(gettyimages)
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 8050問題が注目を浴びている。80代の高齢の親とひきこもる50代の未婚の子が同居する家族の問題を指す。7040問題ともいわれる。

 注目のきっかけは、5月28日に川崎市でおきた大量殺傷事件と6月1日に東京都練馬区で起きた高齢の男性による長男殺人事件だ。前者の容疑者は51歳の無職男性で、後者の容疑者はその事件に衝撃を受け、44歳の同じく無職の息子を手にかけたといわれている。相次ぐ二つの事件で、独身無職のひきこもり中年男性は危険な存在だという空気が、急速に醸成されつつある。

 しかしそのような判断こそ危険である。そもそも報道を見るかぎり、前者の加害者と後者の被害者を同じカテゴリーで括ることはむずかしい。前者の加害者は、親族との交流をほぼ断ちノートに意味不明な文字を書き連ねるなど、精神的に不安定な人物だったことがわかっている。他方で後者の被害者は、最近まで一人で暮らしネットのコミュニティーにも活発に参加するなど、あるていどの社交性はもっていたと考えられる。性別と年齢だけで両者を同一視し、片方が罪を犯したので他方も殺されて当然だと考えるのは、あまりに乱暴だろう。

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