「心配性なんです。とにかく、自分は心配だと。それで何でも指図する。母は心配がいいことだと思っています」
大学は卒業したが、就職活動はうまくいかなかった。アルバイトを3年続けた後、正規雇用に就いたが、試用期間を終えると契約は切られた。派遣業を転々とした後、30歳で自宅にひきこもった。
「体も弱かったし、全てが疲れちゃった。もう、いいや、と」
気楽ではあったが、将来はなかった。昼過ぎに起きて食事をする。好きな洋楽を聴いたり詩作に励んだり。日帰り温泉に行くのも気晴らしだった。だが、40代半ばで父が死んだ後、母と一緒に困窮した。
「母の年金と遺族年金が2カ月ごとに28万円ありましたが、とても暮らせませんでした。母はクレジットカードでお金を引き出しては、年金を使って返済の繰り返し。先のことは考えないようにしました」
困窮しても働くという発想はなかったという。2人は1階と2階で別々に暮らし、食事も別で会話もない。親戚など外部との交流は一切なかった。
ひきこもりの支援者であり、ひきこもり問題に詳しい、白梅学園大学の長谷川俊雄教授はこう指摘する。
「8050問題は、ひきこもる子どもだけでなく親の孤立問題でもあります。親たちは社会関係が希薄であり、本音を語れる友人もいない。親子双方がひきこもりで、家族だけで閉じているケースが多いですね」
この女性の場合も、「高校時代の友人」という細い糸がなければ、社会から発見されなかったかもしれない。(ライター・黒川祥子、編集部・小田健司)
※AERA 2019年6月17日号より抜粋