この6月、ポーランド映画が日本で相次いで公開される。作家性のある作品で存在感を増しているのは、なぜなのか。
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夜になると、花柄のワンピースを着て、軽やかな足取りで外出する母。父は出稼ぎで家にはいない。新しい恋人ができたのではないか、とすべてを悟ったまなざしを向ける息子に対し、母は何げない言葉で、態度で、自分を正当化しようとする──。
人間の嫌なところを突きつけられているようで、胸が痛い。6月1日公開の映画「メモリーズ・オブ・サマー」は、1970年代の終わりのポーランドの田舎町を舞台に、母と少年の心の揺れを描く。監督のアダム・グジンスキ(48)は言う。
「私の作品のテーマは、心理的な残酷さです。人は、ほんのささいな言葉や行動で、ときに無意識のうちに他人の心に傷を与えてしまう」
人間の心理をどこまでも深く探るスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンの作品を好み、大きな影響を受けてきた。
自身も子ども時代を送った70年代後半という時代背景について、「ポーランドは経済危機に陥り、多くの家庭の父親たちが生活水準を維持するために出稼ぎに行っていた時代」と明かす。
「現代に比べコミュニケーションツールが限られていた時代だったので、『父親がいない』という現実は、母親と少年の関係を変化させていく触媒になると考えました。僕にとって、物語はこの時代でなければならなかったのです」
グジンスキ監督の長編2作目にあたる同作品に続き、6月28日には、パヴェウ・パヴリコフスキ監督の「COLD WAR あの歌、2つの心」が公開される。監督の両親をモデルに、冷戦という時代に翻弄される恋人たちの姿をモノクロの圧倒的な映像美で映し出した作品で、昨年のカンヌ国際映画祭では監督賞を受賞した。
ポーランド広報文化センターの久山宏一さんは「日本でポーランド映画が1カ月に2本も劇場公開されたことはこれまでなかった」と言う。ポーランド映画が映画界で存在感を増しているように見えるのはなぜか。