企業主導型保育所「こどもの杜上北沢駅前保育園」は昨年11月、突然休園し、通っていた親子が混乱に陥った(撮影/ライター・大川えみる)
企業主導型保育所「こどもの杜上北沢駅前保育園」は昨年11月、突然休園し、通っていた親子が混乱に陥った(撮影/ライター・大川えみる)
工事費平均とのギャップ(AERA 2019年5月27日号より)
工事費平均とのギャップ(AERA 2019年5月27日号より)

 待機児童解消の切り札として、2016年度に始まった企業主導型保育事業。制度設計の甘さが露呈し、内閣府は改善策を提示した。根本的な解決になるのか。

【表で見る】工事費平均とのギャップ

*  *  *

「工事代金をできるだけ高く請求して頂きたい。総額1億円以下であれば助成が下りる。いくらでもいい」

 2016年夏。東京都内で企業主導型保育所を運営する合同会社「ANELA(アネラ)」から内装設備新装工事を請け負った建設会社は、ANELAのコンサルタントを務める男性からこんな申し出を受けたという。

 記者が独自に入手した資料によれば、工事費の4分の3が補助金として助成されることや、「実費より多くても、運営費として使える」といった説明もあった。

「通常より高額に請求しても問題なく支払われる」と理解した建設会社の担当者は、たとえば東京都目黒区の107平方メートルの保育所では、内装工事費として約8874万円を計上。工事費の4分の3にあたる約6691万円の助成金がANELAに支払われた。

 16年度に457の保育所で行われた内装工事費の平均額は約2028万6千円。目黒区の保育所を含め、東京都内や神奈川県内でANELAが手がけた7施設の工事費は、7千万円前後から1億円弱と、相場をはるかに上回る金額だった。

 意図的に相場より高く改修費が申請された可能性がある。

 企業主導型保育所は、待機児童解消の切り札として16年度に導入された。認可外だが、保育士の数や保育室の面積など一定の基準を満たせば、整備費や運営費の一部が認可並みに助成される。助成金の財源は、企業から集めた「事業主拠出金」。企業が主に従業員向けに設置する保育所だが、「地域枠」を設ければ地元の子どもたちも利用できる。16~17年度は、全国で2322施設が国の助成を受けて開園した。

 会計検査院は今年4月23日、このうち213施設を抽出して調査した結果を公表した。1年間の平均の利用者数が定員の半数に満たない施設が72施設もあった。また、建設途中で国の設備基準を満たしていないことが発覚し、開園が遅れたり開設に至らなかったりした園が9施設あることもわかった。両者あわせた計81施設に対し、国は2年間で約38億6千万円を支出していた。

次のページ