「選手の悩みもわかります。決めてくれれば全力を挙げますし、たとえ東京で使うことができなくても、素材としての優位性は明らか。助成が終わっても取り組みは続けます」(濟藤CEO)

前出の植田教授は、異業種企業からのスポーツ産業参入の課題を指摘する。

「多くが経営者の熱意に何とか支えられているのが現状。しかし、スポーツ産業はもともと、あらゆる産業からの技術流入で発展してきました。トップ選手用だけでなく一般向けの商品に落とし込んだり、スポーツの裾野を広げることに目を向けたりすれば、勝機はあるのでは」

 実際に、トップ選手の用品開発で培った技術を一般向け商品に生かした事例も出始めた。

 昨年4月、元フィギュアスケーターの小塚崇彦さん(30)は、フィギュアスケート用のブレード(刃)「KOZUKA BLADES(コヅカブレード)」の一般販売を発表した。小塚さんがプロデュースし、名古屋の金属加工会社・山一ハガネが製作した。同社は2013年から、当時現役だった小塚さんのブレード開発を開始。従来、スケート靴のブレードは複数のパーツを溶接してつくられるが、4回転ジャンプなど強い動きを繰り返すと曲がってしまうという課題があった。そこで、10キロ以上の金属の塊から300グラム弱を削り出した。開発に携わった技術者の石川貴規さん(41)は言う。

「削り出しで解決できると思いました。溶接のほうが製作は簡単ですが、つなぎ合わせることでブレやズレが生まれます。データ制御技術を使ってひとつの金属の塊から削り出せば、その問題は起こりません」

 小塚さんは14年の全日本選手権に初めてこのブレードで出場し、3位入賞の好成績を収めている。これを多くの人が使いやすい形状にして売り出したのがKOZUKA BLADESだ。18年の全日本選手権には、5位入賞の島田高志郎選手(17)ら6選手がこのブレードで出場した。

 こうした商品開発は、利益は薄いかもしれないが、開発企業にメリットももたらしている。

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