最初は無料で商品を手に入れていたのに、気づくとお金を払っていた……。そんな経験がある人は少なくないだろう。人は「0か100か」を特に重視し、敏感に反応する。無料(=0円)は強い魅力だから、企業がこの心理を活用するのは当然だ。『今さら聞けない 行動経済学の超基本』(橋本之克・著)から、「無料」がもたらす「確実性効果」と企業が儲かる仕組みについて学びたい。
【図解】「つい買っちゃった」追加の買い物が間違った買い物になるパターン
アメリカの行動経済学者ダン・アリエリーによるこんな実験がある。高級チョコレートを15セント、安いチョコレートを1セントで販売すると、大半の消費者は高級チョコレートを選ぶ。ところが、高級チョコレートを14セント、安いチョコレートを無料にすると、その人気は逆転する。どちらも1セント値下げしただけなのに人気が逆転した理由は、安いチョコレートの値段が「無料」、すなわち0セントになったことだ。
このように、人は「無料」に強く反応。「無料ならば」と心のハードルは一気に下がる。だからだろうか。身の回りを見渡せば、スマホのソーシャルゲーム、パソコンのソフトウエアから化粧品、飲料、健康食品まで、無料で使える商品やサービスはたくさんある。では、企業はどうやって「無料」から儲けを生むのだろうか。「無料」が成立するには理由がある。
無料のサービスに申し込むことは、企業の「見込み客リスト」に載ることに等しい。無料にひかれて飲み始めたサプリが良い商品であったり、飲用が習慣化されたりすると、続けたくなるのが人情だ。無料のお試し分がなくなりそうになると、飲み続けるために長期間の契約を結ぶことになり、結局はお金を払うことになる。長く購入してくれる顧客を獲得できれば、企業は最初のお試し分にかかる費用を十分に回収できる。利益も生まれる。無料にひかれた「見込み客」は、高い確率で企業に利益をもたらしてくれるのだ。