開戦から1年経っても、停戦への道筋が見えないウクライナ戦争。その背景や今後などについて、AERA 2023年2月27日号で、歴史人口学者・エマニュエル・トッドさんと意見を交わしたジャーナリスト・池上彰さん。この対談で何を思ったのか。
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印象的な対話だった。
一つは、戦争が始まる前は破綻国家だと思っていたウクライナが、皮肉なことではあるが侵略を受けたことで国家としてのまとまりができ、民族主義的な意味での団結心が出てきたことをトッドさんが認めたこと。
もう一つは、トッドさんは以前からアングロサクソン、特に米国が諸悪の根源だとおっしゃったが、そこを改めて強調したということだ。
ロシアは危機的状況なのではないか。そんな論調がほとんどの中、実は大変な状況にあるのは国民の間で分断が進む米国のほうなのだ。例えば共和党の内部も分裂し、下院議長が15回投票しないと決まらないような状況の中、トランプ前大統領は再登板を狙ってしゃしゃり出てくる。しかし、党内でもトランプさんについていこうという人はごく少ない。一方で、バイデン大統領は大丈夫かというと、自宅で見つかった機密文書の件や、自身の高齢の問題(現在80歳)もある。米国自身が迷走し、危機的状況にあることが露呈している。米国のことも考えていかなければいけないということだろう。
そして、ロシアがこの戦争の勝者になり得るという話。実はロシアはこの戦争の前から、「世界で米国だけが唯一の大国であってはならない、多様な世界でなければならない」といった趣旨のことを言っていた。いまロシアはウクライナでは大変な苦戦をしているようで、私たちはついそこだけ見てしまいがちだが、この戦争で結果的に世界がさまざまに分断し、多様なものになっていくとしたら、それはもっと広い、長いスパンで見ればロシアの世界戦略が実は成功しつつあるのかもしれない……。そういう冷静な視点でこの戦争を見ていかないといけないのだということを、トッドさんに教わった気がする。