

世界的な問題となっている難民問題。人口減少の道をたどる日本も、前向きに取り組んでいく必要がある。
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2008年10月。ドキュメンタリーフォトグラファーの小松由佳さん(36)は遊牧民の撮影のためシリアの砂漠を訪ね、半遊牧民のラドワンさんと出会った。小松さんは毎年シリアに通い、ラドワンさん一家の姿を撮影した。内戦が始まる11年まで。
2240万人の人口のうち550万人超が難民となったシリア内戦。ラドワンさんは兄の逮捕を機に国を離れた。ラドワンさんと小松さんは、ヨルダンで結婚。平和な暮らしを求め日本に来たが、さまざまな困難が2人を待ち受けていた。
「仕事探しには本当に苦労しました」(小松さん)
新宿の外国人向け職業安定所に行った。「日本人の配偶者等」のビザだが、日本語が話せないため仕事は見つからなかった。
「履歴書の職歴欄は『日干しれんが作り』や『ラクダの放牧』。働くことに対する価値観の違いもあり、大変でした」(同)
米国、欧州など、世界で難民・移民問題が世論を二分する争点となっている。日本でも、外国人労働者の受け入れが国会の焦点だった。国際移住機関の佐藤美央(みお)駐日代表は言う。
「人の移動や移住は解決しなければいけない問題というより、ずっと続く現実。何か対策をとったからといって人の移動はなくならない。よりよく管理していく問題です」
国連経済社会局の統計では現在、世界には約2億5800万人の移民がいる。00年比で49%増、世界人口の3.4%だ。移民国家の米国、人の移動を自由化することで経済発展を目指したEUなど、かつて移民は経済成長の原動力でもあった。
人類はゲルマン民族大移動の時代からコロンブスの新大陸到達、ロシア革命による難民の発生など、人口移動を繰り返してきた。東京大学東洋文化研究所の羽田正(はねだまさし)教授はこう言う。
「基本的に人は移動するのです」
中国では18世紀ごろから税金や公衆衛生の問題が改善された結果人口が増え、東南アジアに流出した。19世紀には一獲千金を夢見る人々が米国へ渡った。国境が明確ではなかった時代、人びとはある程度自由に移動していた。パスポートがなければ国外へ移動できなくなったのは、20世紀以降だ。