「父親の任氏の口癖は『面子是給狗吃的』。メンツは犬に食わせるものだ、という意味です」

 身分や立場にとらわれずに、やるべきことをやるという任氏の哲学を表している。これが長女、孟氏の「神秘的」な人生に大きな影響を及ぼしたという。

 孟氏は大学卒業後、1年間の銀行勤務を経て、1993年にファーウェイに入社。最初の仕事は、電話とりや書類コピーなどの雑務を仕切る業務だった。その間、創業者の娘であることは内緒にしていた。弟も最近までは姉同様、母親の孟姓を名乗っていた。いずれも特別な存在ではなく、いち従業員として仕事に向きあうという意思の表れだったとみられている。

 母親の方がしつけに厳しかったという家庭では優しい父親だった任氏だが、仕事では、我が子にも容赦しない経営者に変身した。家族は同社経営に必要な資質を持っていないとして、「子どもは後継者に含まれない」と話したこともある任氏。貧しい生い立ちを乗り越え、一代で同社をスマートフォン出荷量で世界トップ3にまで押し上げた父親の厳格な教育の中で、孟氏は帝王学を学び、後継者と言われるまでに成長した。

 メディア露出もほとんどなく、コツコツと実力を養った孟氏はいま、同社の屋台骨を支える存在になった。そんな中での突然の逮捕劇。背景には、米中両国の覇権をめぐる政治対立があり、事態は一層複雑だ。保釈金1千万カナダドル(約8億5千万円)を支払い、保釈された孟氏は12日、バンクーバーの自宅からSNSで声明を出した。

「すでに家族と一緒です。ファーウェイを誇りに思い、祖国を誇りに思います。心配してくれた全ての人に感謝します」

 真相は今も神秘のベールに包まれたままだ。(編集部・山本大輔)

※AERA 2018年12月24日号