子どもを虐待から救う児童相談所の設立に、反対運動が起きている。舞台は、高級ブランド店が立ち並び、華やかなセレブたちが行き交う南青山だ。
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東京・南青山で港区が進めている児童相談所(児相)の設立計画に、一部の住民が反発している。
「そういうもの(児相)をもってきたときに『港区の価値』が下がるんじゃないかと思うんですよね」
「ランチが1600円ぐらいするところに、なんで(保護対象の)親子を連れてくるんですか」
10月14日に区が開いた住民説明会。近隣住民が区の担当者に詰め寄る様子は一部テレビ局でも放映され、物議をかもした。
ブランドショップが立ち並ぶ南青山5丁目の約1千坪の土地に、港区が「子ども家庭総合支援センター(仮称)」を建設すると発表したのは、昨年2月のことだ。児相の他に、子育て相談などができる「子ども家庭支援センター」や、養育が困難な母子家庭が入居できる「母子生活支援施設」も併設した複合施設となる予定だ。児相には虐待を受けた児童や非行児童を緊急的に保護する一時保護所の機能も持たせ、2021年4月の開設を目指している。
東京都の児相不足は深刻だ。都内全域に11カ所しかなく、相談や通報に対応する児童福祉司は273人だけ(18年4月1日時点)。一方、17年度に都内の児相に寄せられた相談件数は3万7479件で、1人で年間137件もの相談を抱えている計算になる。
厚生労働省によると、16年度に虐待で亡くなった子どもは77人。5日に1人のペースで子どもの命が奪われており、児相の必要性が高まっていることは間違いない。
反対する住民たちが不安視しているのは、児相を訪れる人たちが、南青山の雰囲気を変えてしまうことだ。住民からは、DVや虐待をした「加害者」が母子を連れ戻しに来たり、一時保護されている非行児童の仲間が押しかけたりすることを心配する声が聞かれた。
「本来はもっと静かな環境で、こうした方々を保護するべきでしょう。こんなに有名になってしまった施設では逆に目立って『来る人たち』にとってもかわいそうです」(60代女性)
夫婦で暮らしているという63歳の女性は言う。