デビュー時の有名なエピソードをもう一つ。講談社では作家に読者の人気投票のアンケート結果を送っていると聞き、一条さんは自分にも「りぼん」のアンケート結果を見せてくれるように交渉した。

「編集からは『結果が良い時に教えてあげるよ』と言われたんですが、逆に悪い時にこそ教えてほしい、と頼みました。結果が良い時はそのまま続けても問題がないけれど、悪い時には、理由を考えて、軌道修正をしなくてはいけませんから。編集は驚いていましたが、プロとして自分の望むものを描いていくためには、自分がどんな位置にいるのか把握する必要があります。読者アンケートはうってつけの検討材料だと思いました」

 編集者や読者におもねるわけではなく、自分の位置を客観的に分析しながら、好きなものを描き、人気を得る。言うのは簡単だが、過酷な道だ。

「時代から取り残されたくない、と強く思ってきました。だから絵がうまくなるように努力してきたのに、『いつまでも変わりませんね』と言われる。なぜだろう?と思っていたのですが、時代の上昇気流に合わせて、自分を上げていくと『変わらないですね』と言われるんだな、とわかってきた。それまでの水準を保っているだけでは『落ちた』ように見える。『変わらない』は褒め言葉です」

 幅広いジャンルの作品を描いてきた一条さんだが、「メルヘンは嫌い」だそうだ。

クマが話したり、森の木が踊りだすって、リアリティーを感じられません。でもファンタジーは好きです。女の子が『男になりたい』と思うのはメルヘンだけど、どんなに貧乏でも『大金持ちになりたい』と願うのはファンタジー。50歳の女性が『素敵な男性が現れないだろうか』と願うのは、可能性があるからファンタジーだと思う。そのかわり、王子様と出会い、ゲットするためには凄い努力が必要になる。まず、周りの人が協力したくなる感じの良い人になって、片っ端から集まりに出て、人を紹介してもらう。すごく魅力的な人になれば、何歳だって素敵な男性に出会えるでしょう。これこそファンタジーよ」

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