心配するなかれ。文科省によると、「過去に取得した事実まで消えるわけではない」という。

「失効したからといって、大学などで必要な単位を取得して教員免許を得たという事実は消えません。失効状態でも教員採用試験を受験したり、臨時任用のリストに名前を記載したりすることはできますし、そのように教員になるステップを踏めば、更新講習の受講資格を得られます。その後、実際に教壇に立つまでに講習を修了することで、再び教員免許を手にできます」(教員免許企画室)

 免許更新に必要な講習は、必修・選択合わせて30時間以上。1日6時間の講習を5日受けるのがモデルケースだ。全国500以上の大学などが講習を開いている。学校の夏休み期間に合わせたものが多いが、週末や、ウェブの講習を開く大学もあり、教員採用試験を受験した後のペーパーティーチャーでも大丈夫そうだ。履歴書にも「(更新講習未受講)」などと書き添えれば、失効後も「教員免許を取得」と記載して問題ないという。

 現職教員らは、有効期限のおよそ2年前から講習を受けられる。Aさんの周囲でも、この夏休みに受講する人が多い。一方、受講できない事実を知って戸惑うペーパーティーチャーも、今後さらに増えるだろう。

 09年3月までに取得した「旧免許」についても、現職教員らは更新講習を受ける必要がある。ペーパーティーチャーの場合は失効こそしないが、教壇に立つには同様に受講が必須で、運用上は新免許と大差ないようだ。

 失効するとはいえ、すべてが無駄になるわけではないと知ったAさんは言った。

「講習を受けられないと知ったときは焦りましたが、今のところ特に不利益はなさそうで安心しました」

(編集部・川口穣)

AERA 2018年8月13-20日合併号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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