「株式で手数料を取れるのは売買する時だけですが、投信だと販売時の手数料だけでなく、預かり残高に応じて日割りで信託報酬という名の収入があります。人件費や支店の賃料など固定費の一定部分を投信の信託報酬でカバーできれば、会社の資金繰りが安定するので、グロソブは証券会社の命綱だったのです」
そんなグロソブが解約ラッシュに見舞われた一因は、7月の退任が報じられている金融庁の森信親長官による「顧客本位宣言」である。森長官は前職の監督局長時代から顧客本位を唱え、「回転売買」と呼ばれる投信の頻繁な乗り換え推奨や、銀行による高コストな変額保険販売を批判してきた。名指しこそしなかったが、グロソブも「収益分配頻度の高い」商品設計が「顧客の利益になっていない」とやり玉に挙げられた。
このため、多くの証券会社や銀行は、グロソブなど毎月分配型ファンドの残高積み増しから一転し、削減へとかじを切った。先の元支店長Aさんは「金融庁ににらまれる事態を回避するために、グロソブを含む毎月分配型ファンドの残高を極力落とすよう、一昨年に本店から指令があった。顧客には他のファンドや株式を薦めました」。前回と意味は違うが、これが2度目の「グロソブを売れ」である。
グロソブが売れたのは毎月分配に加え、投資先が先進国の国債など格付けの高い政府債(ソブリン債)だったことも大きい。欧米などの国債は、債務不履行(デフォルト)の可能性は確かに小さいが、債券価格は常に変動するほか、外貨建て資産である以上、為替による損失を被るリスクもある。
ただ、「資金運用に日本人は保守的なので、アメリカやドイツ、フランスの国債ならば大丈夫と簡単に思い込んでしまうのでしょう。リスクを説明してもグロソブを預金代わりの商品と誤解したままの投資家は少なくありませんでした」と、Aさんは回顧する。
一方、毎月分配型ファンドについて証券会社や銀行だけが悪者にされる風潮に異論を唱える人物もいる。富裕層向けの投資アドバイスを手掛ける財産ネットの藤本誠之企業調査部長である。藤本氏は複数のインターネット証券で勤務経験がある。
「ネット証券は対面営業の証券会社と違って、特定の株式や投信を強烈にプッシュすることはありません。しかし、グロソブは営業をかけないネット証券でも売れていました」(藤本氏)
投資家のほうからグロソブを求めていたのである。グロソブの投資先は先進国の国債だから安全で、しかも分配金が毎月支払われるから運用している実感もあり、小遣いの足しにもなる。
「毎月分配型ファンドを作った投信会社や、売った銀行や証券会社が悪くはないとは言いませんが、理解不足で投資した顧客にも責任の一端はあります」(同)
(経済ジャーナリスト・笹谷清太郎)
※AERA 2018年7月9日号より抜粋