経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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米朝首脳会談が終わったと思ったら今度は米中貿易戦争の勃発と、トランプ劇場は止まりません。中国からの輸入品500億ドル分に25%に及ぶ関税を課すというわけですから随分な話のように見えますが、中国製品が割高になれば他の国から輸入するだけのことですから、あまり影響はありませんね。
これがキラーコンテンツであると大変な影響が出てくるのですが、手元にあるリストを見ている限り、そういうものはほとんどないように思われます。我々の業界で言う「ブリキのバケツ(誰でも作れるもの)」にさらなる関税をかけるので、他の誰かが得をすることになりますね。
一方でキラーコンテンツに間違ってかけてしまうと逆効果。まさに日本の鉄鋼製品にはすでに25%の追加関税が課せられたわけですが、4月の貿易統計では前年同月比で約13%増えてしまった(しかも数量ベース)。つまり、日本製品以外で代替できなかったために泣く泣く関税を払った人がいるわけです。肝心なのは結局、関税というのは最終的にはアメリカの消費者が負担することを意味するということです。
鉄鋼製品はいいですが、自動車にもとか言い出すと話がかなりややこしくなります。トランプ大統領はすでに商務省に対し自動車に25%の関税強化を検討せよと指示を出しています。自動車はアメリカの消費者が無理やり買わされているのではなく、何を買ってもいいという市場の中で欲しい車を買っているわけですから、関税がもろに消費者の負担になります。なんでこんな負担をしなきゃいけないんだ!! という反発が国民から出ることは必至です。
関税の強化は増税と何ら変わらないのです。トランプ大統領は減税を実現したと胸を張っているわけですが、関税強化なんぞやるとまさに「マッチポンプ」となります。
ちなみにアメリカは2017年に約3600億ドルほど自動車を輸入しているので、これに25%の関税をかけると、900億ドル=10兆円!! が増税となるのに等しいわけですね。だからと言って、消費者はアメリカの車を買うんでしょうか? それはないとすると、これはトンデモナイ話ということになります。
私はメキシコの移民制限なんかしたらアメリカ中のレストランが潰れてしまうとあちこちで書いていますが、移民制限をしたからといって、元からそんなキツイ仕事をしたいアメリカ人はいないわけですから無意味です。
この問題もまったく同じで、若年労働人口が唯一増えている先進国であるアメリカにおいては経済成長は約束されたようなものなのに、何回も言っているように、その足を引っ張る最大のリスクがトランプ大統領自身というのではシャレにもなりません。
※AERA 7月2日号