お笑い芸人のマキタスポーツさんによる「AERA」の新連載「おぢ産おぢ消」。俳優やミュージシャンなどマルチな才能を発揮するマキタスポーツさんが、“おじさん視点”で世の中の物事を語ります。
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「頑張らないと親に似る」ということについて。
我々人間は、生まれ落ちてから、実は「影響」から逃げ切れたことが無い生き物だ。まずは親の影響を受ける。親でなければ、一番近しい人でも良い、いずれにせよ「影響」によって人格は形成されていく。それは、大体において“気づいたらそうなっている”ということがほとんどで、なるほど「影響」とは、かくも恐ろしく人間にとって意志の力が及びづらい何かなのだろう。だからか、「影響」は時に人に負荷も与える。意識的にせよ、無意識的にせよそのぐらい強い磁力なのだ。そして、影響の最大の敵は「面倒臭い」という気分である。
例えばこんなことがあった。一人暮らしの長い兄がどんどん親に似ていったという現象がそれだ。
2008年に母親が亡くなる。その時兄は40代前半。気力体力も充実していた頃。そんな時に母親が亡くなってしまった。長男として、家業も継がず、結婚もせず、孫の顔も見せない風来坊な自分に対する後ろめたさも彼なりにあったのだと思う。通過儀礼でもある重大なセレモニーの「葬式」をきっちり段取ることでそれらを払拭しようと試みているようであった。所作も含め見事な社会性だった。ところが、約5年後に今度は親父が亡くなると状況は一変した。
兄は母親が亡くなった後も相変わらず結婚はせず、あろうことか仕事も辞め、対人関係も断ち、孤独な生活をしていたようだった。こういうとロクなもんじゃないと思われてしまうことだろう。フォローしておくと。同棲していた彼女に家を出られた上、二人で飼っていたはずの大型犬二頭を置いていかれた。また、そのうちの一頭が何故だか下半身不随の病気になり、その介護に追われる毎日だったそうだ。