わたしも担当してみて、自動車は家電よりも格段に大きな産業だとわかりました。わたしたちが「がんばってきた」と言っても家電と部品の産業はまだ小さい。世の中には大きな産業がたくさんあります。パナソニックだけの夢を追う価値は相対的に下がりました。自動車関連であれば、トヨタ自動車でもテスラでも、大きな夢を追う自動車会社と組んで相乗効果を発揮したほうがいい結果を出せる。
だから、お客さまが困ったとき、「パナソニックは頼りになる。パナソニックに相談しよう」と思ってもらえる力は今後も不可欠です。「単に家電だけの会社ではない」と、わたしが宣言したことも影響しているでしょう。ここでも創業者が言うように、次に必要となるお役立ちを先手先手でまじめに考えて他社を先回りする。これを柔軟にできることが生き延びる道であり、社会から必要とされる条件です。
それには100年かけて培った高いものづくり力、それを支える人材、仕入れ先やお客さまとの関係をすべてつぎ込まねばなりません。パナソニックという会社やブランドに対する信頼もありますが、37ある事業部それぞれが高い専門性を有しているのは競争上かなり有利です。次の世代に引き継いでいきたい。
歴史は積み重ねてきましたが、われわれの根本はシンプルです。基本の考え方は「素直な心」や「一商人」のように、どんなに会社が大きくなっても、人が言うことを虚心坦懐によく聞くことに尽きます。
とはいえ時代は移り変わっていく。そこで「日に新た」。企業は社会の変化に適応し、むしろ一歩先を進む。創業者は、非常にシンプルでわかりやすい言葉を残しました。ただ、言葉を採り入れつつも、最後に判断するのは自分。これが経営や人生の醍醐味でしょう。
(構成/ジャーナリスト・大竹哲也)
※AERA 6月18日号