いま40代、50代を迎えた女性たちは約1700万人。家族構成もライフスタイルも多様なのが特徴だが、一方で社会には旧来の年齢イメージによるモノサシが厳然と残る。特に女性は、年齢を重ねることがネガティブに見られがちだ。だが、年齢の枠にとらわれず、仕事やプライベートで積んできた経験を生かして活躍する女性たちがいる。
「サザエさんに出てくるフネさん。何歳の設定だか知っていますか? 52歳ですよ。いまフネさんみたいな52歳ってそうそういないですよね」
そう快活に語るのは化粧品メーカー、伊勢半で開発本部長を務める池戸和子さん(49)だ。昨年3月、50、60代をターゲットとする主力ブランド「キスミー フェルム」から紅筆と口紅が一体になった「紅筆リキッドルージュ」を発売すると、ドラッグストアのリキッドルージュの売り上げ上位を独占するなど、世代を超えるヒットとなった。「紅筆」というレトロさを感じさせる商品と「口紅」との組み合わせの妙が当たった。
「いまの40代から60代の女性は精神的に若く、ひと昔前と違ってきている実感がありました」
商品開発前に、約1万人の女性を調査すると意外な発見があった。40代後半では約7割、50代後半では8割近くの女性が紅筆を使っていた。精神的には若くても、加齢による肌の衰えは避けられない。口紅を塗っただけでは輪郭がぼやけやすいため紅筆を使っていたのだ。
しかし口紅を紅筆にとって、唇に塗るという“2ステップ”は手間だ。どうしたらいいか。それを考えていた時、30代の部下からの情報がヒントになった。部下の母親は60代。出かけるときあらかじめ口紅を紅筆に含ませて持っていくという。
「これだ!と思いました」
池戸さん自身がターゲットと同じ実感を持つからこそ潜在ニーズを探り当てられた。このほかにも、プロがメイクアップし、プロのカメラマンが撮影する「きれい応援プロジェクト」を実施している。
「メイクをするうち、みなさんいきいきしてくる。『リウマチで足が痛くて』とこぼしていた60代の方がメイク後、元気にすたすた歩いて帰られたケースもあります。化粧品を通して、気持ちのエイジングケアができるのは仕事冥利に尽きます」