内田前監督や井上前コーチが5月23日に開いた会見。記者と日大広報担当者が「日大のブランドを失墜させることになる」「落ちません」などと言い合う場面も (c)朝日新聞社
内田前監督や井上前コーチが5月23日に開いた会見。記者と日大広報担当者が「日大のブランドを失墜させることになる」「落ちません」などと言い合う場面も (c)朝日新聞社
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 日本大学対関西学院大学の定期戦で、日大の宮川泰介選手(3年)の悪質なタックルにより関学大選手(2年)が負傷した問題。「監督らの指示があった」と告発した宮川選手に対し内田正人前監督(62)らは反論し、警視庁やスポーツ庁が介入する騒動に発展している。

 指示されたら、やってしまうものなのか。そこまで追い詰められたのか。宮川選手は日本代表入りを監督に止められても一切反論していない。尋常でない従順さはどこからくるのか。

「相手のエースを削るんだったら試合に出してやるって、もしコーチに言われたらどうする?」

 この「削る」は「けがをさせる」の意味だ。日大の井上奨(つとむ)前コーチの発言「潰す」を宮川選手がそう受け取ったように。少年サッカー激戦区の神奈川県で4強入りしたこともあるNPO大豆戸フットボールクラブ(FC)でコーチがそう尋ねると、所属する中学3年はこう答えた。

「やるかもしれないです」

 このことを、NPO代表理事の末本亮太さん(39)はスタッフ全員で共有した。

「日頃汚いラフプレーなどしない子でも、試合に出るためなら何でもやるという感覚があるようだ。指導を見直そうとスタッフで話し合った」

 そう話す末本さんによると、他チームの試合では上手な子をマークしている子どもに「削れ!」「体ごといけ!」とベンチから声が飛ぶという。背後から危険なタックルをしてもコーチはその子を叱らない。大人が反則をやらせているようにも見える。

『新版リーダーシップからフォロワーシップへ』の著書がある日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二さん(45)は、悪質な反則をやらせてしまう土壌は少なからずどの競技にもあるのではと指摘する。

「反則ギリギリならOKという空気が、教える側、選手側、見る側に蔓延している。それがスポーツの醍醐味だという風潮もあった。しかし、これぐらいは許されるだろうと思われていたグレーゾーンが、今はビデオ映像を活用した判定が一般的になり、表面化してきた」

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